スペイン文化事典

2011年02月

【編】川成洋、 坂東省次 
【編集協力】セルバンテス文化センター東京
【発行】丸善株式会社 
【価格】21,000円(税込)
【ISBN】 978-4-621-08301-7
【仕様】A5判 860頁  (2011年1月刊行)

 日本がスペインと最初に出会うのは南蛮時代のことである。当時スペインは、7つの大海を支配し、世界に「太陽の没することなき大帝国」と謳われた栄光の国であった。しかし、わが国が長い鎖国を解いて世界に向かって開国して再会したときのスペインは、すでに大国の座をイギリス、フランス、ドイツ、アメリカに譲っていた。12世紀ルネサンスの先進基地として西ヨーロッパに眩いばかりの知の光芒を放ち、16・17世紀にはヨーロッパ文化史上に燦然と輝く「黄金世紀」を生み出したにもかかわらず、近代物質文明に乗り遅れたばかりに文字通りヨーロッパ辺境の地となり、「ピレネーの南はヨーロッパではない」と賎しめられ、エキゾチックな国、神秘の国、謎の国などと揶揄されていたのである。近代化を目指すべく欧米先進諸国に傾注した日本が、スペイン南部をスペインと誤解して、「情熱の国」「太陽の国」「フラメンコの国」といったステレオタイプのイメージを抱え込んだのも当然の結果であった。スペイン内戦(1936~39年)終結から70年、フランコ独裁政権(1939~75年)崩壊からすでに35年、わけても1986年に悲願のEC加盟を果たした民主国家スペインは、辺境の地の汚名返上とばかりに、ヨーロッパの一員としてダイナミックな変革・改革を行ってきた。その結果、1992年には「スペイン・イヤー」と呼ばれた最盛期を迎え、2002年にはEUの単一通貨ユーロの導入の第一陣にも加わり、GDP世界第8位の経済大国にまで成長したのである。そんな中で、従来のステレオタイプ化されたスペイン像では捉えられない「新しいスペイン」が誕生してきているのである。

 それにしても、新しいスペインの登場で古いスペインが消滅したわけではなく、例えば、伝統のスペインを代表するフラメンコは強烈にその存在を示し続けており、加えて新しい時代に則した進化も遂げているようである。果せるかなというべきか、いまや、新しい視点から見たスペイン文化情報が必要になっている。

 本書の最大の特色はなんといっても、新しいスペインと伝統のスペインの両面を十分に勘案し、総合的かつ立体的なスペイン文化の知識や情報を提供することにある。そのために本書では、スペイン文化のさまざまなテーマを「中項目主義」のスタイルで解説する方針を貫いている。小項目主義では情報がもの足りなく不十分であり、また大項目主義では情報過多で内容も専門的、あるいは論文調になり読んで退屈してしまうだろう。中項目主義では情報量が適度であり、読んで楽しく内容が理解できると考えたからである。本書はカラーの口絵、本文、および巻末付録(歴史年表・地図・世界遺産一覧・パラドール一覧・読書ガイド)で構成され、総勢150名の内外の研究者が執筆に参加している。

 本書の章立ては「スペインという国」、「文化・文化現象・ファッション」、「美術・芸術」、「建築・彫刻」、「音楽・映画」、「フラメンコと闘牛」、「食文化」、「スポーツ・教育」、「文学・メディア」、「知識人・知的活動」、「言語・国民アイデンティティ」、「社会・経済・政治・宗教」、「歴史」、そして「世界遺産・遺産」の14分野で構成されている。これら14分野がさらに合計363の項目に細分化されており、それぞれの項目は基本的に見開き2頁で、小見出しが付けられ、関連写真が基本的に一葉掲載され、とても読みやすいレイアウト構成になっており、イスパノフィロ(スペイン大好き人間)のみならず、初学者から異文化コミュニケーション研究者に至るまで、幅広い読者のニーズに応えられる内容になっている。

小林秀一郎
丸善出版事業部・企画編集部