サンティアゴ巡礼 聖地めざして

2011年5月

 キッカケ?2006年スペイン旅行中に立ち寄ったサンティアゴ・デ・コンポステラで1人のスペイン人巡礼者に出会ったことにある。大聖堂の前に到着したばかりの彼に尋ねた。満足感と達成感に溢れていた笑顔が忘れられない。
「私も歩けるでしょうか」ときくと、
「誰でも歩けますよ。道中、困ったときこそヤコブ様がお助け下さるからです」と励ましてくれました。この一言は効いた。この瞬間、決心した。来年きっと巡礼に出かけようと。
 帰国後、巡礼関連の本に目を通した。自分なりに概要も掴めてきた。巡礼路には複数のルートがあるが「フランス道」を選んだ。マドリードの友人、アンパロさんに依頼しておいたガイドブック1冊も届いた。「無事受取ったよ。気に入った。有難う。」と彼女にお礼の電話を入れた。「それじゃ巡礼を果した暁にはマドリードで祝杯のバル巡りをしましょうね。」と。何と気の早い!
 インターネットでは次のサイトが役立った。

http://www.mundicamino.com
http://caminodesantiago.consumer.es

必要と思われる箇所はプリントして道中ずっと携帯することにした。
 年が明けて2007年。準備には時間をかけた。まず足腰。2〜3時間の散歩を日課とし、高度差への対応も考えてポンポン山へ5回、愛宕山へ4回出かけた。
 体験談を読むと膝を痛め足のマメに苦しんだ話が必ず出てくる。装備は個人差があるので自分で判断するしかない。
 巡礼宿には洗濯場と干し場は有って、有料の洗濯機・乾燥機を備えた宿もある。着替えの枚数は最小限にし、こまめに洗濯するように、と案内書によるアドバイス。
 2007年5月、関西空港を出発。マドリードで1泊し翌日バスでアストルガへ。4時間。巡礼事務所で「巡礼手帳」発行の際、「何故巡礼路を歩くのですか?」と質問される。「今年70才を迎える節目になり自分の内面を見直す機会にしたい。」と神妙に答えた。

 首からホタテ貝をぶらさげ杖をついて歩き出すと姿は一人前の巡礼者に変身。村の宿に着くと、すでに十数人が入っていた。夕食と朝食を注文し、シャワーを浴びて、めいめい自由な時間を楽しむ。話していると各国の国民性が見事に出ていて面白い。陽気に盛り上がっているのはメキシコ人グループ。物静かに話しかけてきたのはフィンランド人女性3人組。地元スペイン人兄弟はすでにワインでごきげん。黙々とメモ帳に書き込んでいたのはドイツ人だった。長身のオーストリア青年は人気者。

 日ごとに歩きにも慣れてきて周囲の景色に目をやり鳥のさえずりに耳を傾ける余裕も。1日の歩行距離を欲ばらず10〜14キロに抑えていたのがよかった。

 4日目イラゴ峠へ。ここには「鉄の十字架」がある。巡礼者が道中の無事を祈り持参した小石を置いてゆく。長い年月で今や小さいコンモリした丘になっている。病気回復や孫の誕生に感謝をこめて名前を書いた小石をそっと置いていた人も。

 ここから下り坂の連続でエルアセボ、モリナセカなどいくつもの村で宿泊し難所の一つセブレイロ峠の手前で一泊。翌朝一気に峠越えをする為である。12日目にして無事にこの霧深い峠を越した。ガリシア州へ入ったのだ。サモスの修道院へは14日目に到着。グレゴリオ聖歌を聞かせてもらった。翌日サリアへ。巡礼者にケイマーダがふるまわれた。蒸留酒オルホに火をつけ炎を起こし小さいコップに注いで飲む。宿の女主人が呪文を唱えて魔除けの儀式。明かりを消して真暗の中、まるで幽玄の世界。貴重な体験。

 道中、疲れてくると「何故自分は今この道を歩いているのだ?」と自問し始める。自分に向き合い内面を見直す為ではなかったのか。聖地を目ざして歩いていたのに心の中ではさし当り今日の宿を目ざしているケチくさい小さい自分の姿に気がつく。大自然の中のちっぽけな1人の自分。だが何千人何万人の巡礼者が同じこの道を歩いているのだ。決して1人ぼっちじゃない。そうだヤコブ様と歩いているのではないのか。

と、「サンティアゴまであと100キロ」の道標。ここで元気百倍。10日かけてモンテドゴソ(歓喜の丘)。2泊後遂にサンティアゴ大聖堂への到着。通算26日目。260キロ踏破。巡礼者の為のミサでは日本人の到着を告げる司祭の声がはっきり聞きとれて感動。中には涙している巡礼者の姿も。巡礼は終った。マドリードに戻りアンパロさんらに祝福されバル巡りをした。だが本当の巡礼は今から始まるのだ。この後も毎年巡礼に出かけた。2011年4月には5回目の巡礼の旅に出ているであろう。

文・写真提供 杉本嘉孝


背中に朝日を浴びて西へ・サンティアゴへ



サモスの巡礼宿(修道院の一部)
壁の絵が巡礼者をなごませてくれます



サンティアゴまであと100キロ 
徒歩巡礼では最低100キロを歩かないと巡礼証明書はもらえない



巡礼道は自分と対話する機会を与えてくれる



トサントスの巡礼宿(向かって左から3人目が筆者)



黄色の矢印がサンティアゴへの道標