楽しむこと」は、前を向いて生きるということ。 スペインワインと料理が、それを教えてくれた一日。


「京都でペネデスとラマンチャを訪ねよう。」 ~Let’s visit Penedes and La Mancha in Kyoto!~ 2011.6.8
ワインセミナー@スペイン炭火焼料理 EL FOGON / チャリティーバル@スペイン食堂 LA GALLEGA

2011年8月

 2011年3月11日に起こった東日本大震災に、誰もが深く心を痛めた。それは祖国が、そしてそこに住む人びとが深く傷ついたのを目の当たりにした日本人だけではない。震災の直後からインターネット上などで世界中からあふれんばかりに寄せられた言葉からは、いかに世界の人びとが日本で起こった災害に心を痛めているか、そして日本に対していかに思いやりの心を抱いてくれているかを物語っていた。今回のことによって、多くの日本人が世界との絆を強く感じたことだろう。

 そして6月8日、京都でひとつの絆がカタチとなった。この日のイベントは2本立て。ひとつは昼間にスペイン炭火焼料理・EL FOGONで開催されたワインセミナー「京都でペネデスとラマンチャを訪ねよう。~Let’s visit Penedes and La Mancha in Kyoto!~」。もうひとつは夜にスペイン食堂・LA GALLEGAで開催されたチャリティーバルだ。仕掛け人はスペインワインのコーディネーターであるパブロ・アロマール氏と、会場となったレストランのオーナーである、株式会社バハルボール代表取締役・木下清孝氏だ。開催にあたっては、ワイン商社である株式会社仙石の全面的な協力もあった。

 今回の企画に参加したワイナリーは2社。アルヒベスのオーナー、マヌエル・モランテ氏、エメンディスのオーナー、アンナ・バレス氏だ。まずは「スペイン炭火焼料理・EL FOGON」で、フリーテイスティングとそれぞれのワイナリーのプレゼンテーションが行われた。シラー100%のロゼワイン「ビーニャ・アルヒベス・ロサード」や、シャルドネに樽熟成を加えることで、樽の香ばしい香りが漂う「カバ・エメンディス・リゼルバ・ブリュット・ナチュール」など、個性的ながらさまざまな料理シーンに合うワインの数々を味わうことができた。そして、テイスティング時に気がついたのは、両ワイナリーのボトルに貼られた共通のシールだ。そこには「HELP JAPAN with wine」というプロジェクト名が記されていた。そう、これこそが今回のイベントの大きなテーマだったのだ。

 発起人はパブロ氏。このプロジェクトは、彼自身の体験がきっかけとなった。あの3月11日、パブロ氏は大阪を訪れていた。東北で巨大地震そのニュースを聞いたパブロ氏は、いてもたってもいられず、京都に移動し、木下氏とともにテレビの前に張り付き、次々と報じられる震災の惨状を目の当たりにした。大好きな日本が信じられないことになっている、パブロ氏は大きな悲しみに打ちひしがれた。後日、後ろ髪を引かれる思いだったが、スケジュールを遵守するため、パブロ氏は予定どおりスペインへの帰路につくことになった。空港でスペインからの便を見たパブロは、再び心を痛める。

「その便は250人が乗れる機体でした。しかし、日本に着いた時に乗っていたのはわずか40人。ガラガラですよ。にもかかわらず、被災した日本のための支援物資をまったく積まず、日本に来ていました。確かにスペイン政府は財政が苦しい状況であることはわかっています。でも、国としてまったく支援に動き出さなかったことに対して、スペイン人として、恥ずかしさを通り越して、怒りすら覚えました」と、パブロ氏は紅潮して声を荒げた。

 帰国したパブロ氏はさっそく親しいワイナリーに声をかけ、日本を支援するプロジェクトに動き出した。それに快く賛同したのが、今回来日したアルヒベスのオーナー、マヌエル氏、エメンディスのオーナー、アンナ氏だったというわけだ。「HELP JAPAN with wine」のシールが貼られたワインは、スペインなら1本あたり1ユーロ、日本では株式会社仙石の協力のもと、1本あたり200円が震災復興の義援金として寄付されることとなった。

「2年前に来日して木下氏とその家族に暖かく迎えていただき、それ以来、日本のことが大好きになりました。だから大好きな日本の方々と一緒にチャリティを行うことに大賛成しました。みんな一緒に取り組めば、必ず大きな力になる。できる限り、このプロジェクトを続けていきたいと考えています」と、マヌエル氏。アンナ氏も「京都は日本を象徴する町。私も2度の来日を通して、自分の家のような居心地の良さを感じています。今回、そんな京都で日本を応援するプロジェクトに参加できることをうれしく思います」と語った。

 ワインセミナーは飲食関係者、メディア関係者、クリエイターなど、さまざまな業種のゲストが集まり、それぞれがワイナリーの思いに耳を傾けたり、多彩な個性を放つワインのテイスティングを楽しんだりした。

 18時からは場所を「スペイン食堂・LA GALLEGA」に移し、チャリティーバルが開催された。この催しにも、アルヒベスとエメンディスのワイン、カバがラインナップ。「LA GALLEGA」で人気のパエリアやタパスも提供された。この日の売上は東日本大震災の復興支援金として、京都新聞社福祉事業団を通じて全額寄付された。バハルボールグループでは、震災以降、同様のイベントは4回目。今回はワイナリー・オーナーも駆けつけ、最も大きな催しとなった。日が暮れにつれて、続々と訪れるゲスト。さらにその盛り上がりに華を添えたのは、パブロ氏、マヌエル氏、アンナ氏のスペイン人たちに加え、5歳になる木下氏のご子息の飛び入り参加だった。この小さなカバジェロはスペイン人たちを巻き込みながら、常に賑わいの中心となり、場を大きく盛り上げた。ついには闘牛ごっこも始まり、会場は笑いと喝采に包まれた。そして、何度も繰り返されるスペイン語での乾杯。チャリティーイベントではあったが、震災による悲しみに表情を曇らせる人はひとりもいなかった。そう、それがスペイン流の生き方。人生は辛いことが多い。そして、いつ悲しい出来事に巻き込まれるかわからない。しかし、今、この瞬間に生を受けていることに感謝し、楽しむことで、明日を生きる英気を養うのだ。心が傷ついているからこそ、仲間と集い、生の喜びを再確認するのだ。

 くしくもこの日は、木下氏の41回目の誕生日。サプライズで陽子夫人とソルくんからバースデーデコレーションパエリアが贈られ、イベントの盛り上がりは最高潮に達した。

「今日、スペインからも大切な友達がこの日のために駆けつけ、このチャリティーイベントを盛り上げてくれて、本当にありがたいと思います。パブロ、マヌエル、アンナの深い愛情を感じることができますし、今日、参加してくれたゲストの方々も、彼らと友達になり、これから親交を深めていただけたら、もっとうれしいです。今後、僕には夢があります。それはスペインの友人、日本の友人と一緒にワインをつくることです。今日をきっかけに、みんなで力を合わせて京都ブランドのワインをつくりたい。ぜひ一緒に夢を実現しましょう!」

 震災から日本が立ち上がるには、あと20~30年かかるかもしれない。しかし、人の心が前を向いていれば、復興を早めることができるかもしれないし、少なくとも常に前進し続けることができるはずだ。今回のイベントで感じたのはスペインと日本をつなぐ、友情という絆。心を開くことができる友と旨いワインと料理を囲み、この時間、この場所を楽しむことが、これからも前を向いて生きていく原動力となる。今の日本にとって必要なのは、そうやって「人生を楽しむこと」ではないだろうか。


生産者とインポーター、そしてスタッフが一丸となって
このイベントを成功させた



スペイン食堂 LA GALLEGA にて開かれたチャリティーバル