スペイン奥の細道紀行:
バスク・アンダルシア・・・

2013年02月

【著者】 永峰清成
【出版社】 彩流社
【定価】 2,310円(税込)
【ISBN】 9784779118098

『憧れは美しさにあるのか』

 青年時代のあの日に、神がかり的にスペインへの憧れをもったのは、決して姿形(すがたかたち)の美しさや、心の優しさに対して惹かれたからではない。私がそこに見たのは、むしろそれとは対照的に、荒あらしく、古くさいスペインの山野を写し出している風景だった。老婆が水瓶を頭に乗せて田舎道を行く様子や、女たちが、今にも掴みがからんばかりの形相で罵りあっている場面など。さらに山岳地帯に馬を疾駆させる男たちの野性的な姿にこそ、強く惹かれたのである。その中に、山賊の一団が映っていたかどうかは、分からない。

 私はあえて、スペイン人ではない、ビゼーの『カルメン』の音楽が好きだと、言いたい。それも「ハバネラ」や「闘牛士の歌」ではなく、第四幕への前奏曲「アラゴネーズ」に、言いようもなく感じるのだ。パソドブレの早いテンポで奏されるこの短い曲は、やがて不慮の死を遂げることになる自らを知って、何ものかに向かって疾走する男たちへの葬送の曲なのだ、と私はいつも思う。この本の中では、一世を風靡した山賊ホセ・マリアや、今や私のことを、ミ・ファミリアと呼ぶグラナダの山賊の末裔一族のことを多く書いた。それは今までの日本人の、誰も書いたことのないテーマだと思っている。

 読者には、ドン・キホーテや「ゲルニカ」やフラメンコとは違った、かつてのスペインの姿を想い出していただければと思っている。それにスペイン内戦については、川成洋氏が多くの本を書いておられるが、そこに登場しているであろう名もない男たちの生き様(ざま)については、私もより多く識っているつもりでいる。

文 永峯清成



サンティアゴ巡礼の歴史

2013年02月

【著者】 ホセ・ラモン・マリニョ・フェロ
【訳】 下山静香 
【監訳】 川成洋
【出版社】 原書房
【定価】 3,570円(税込)
【ISBN】9784562048540

 本書は、キリストの十二使徒の一人で、中世ヨーロッパの精神世界の形成に影響を与えたサンティアゴ(聖ヤコブ)伝説の歴史的変容がテーマである。伝説とは、「歴史的要素と架空の要素が様々な割合で混じり合って形づくられている物語」、「信心をより強靭にするために歴史上の人物を活用する説教の物語」のことである。よって、伝説を読む際には、「時代錯誤の部分や歴史上の間違いを探すのではなく、そこに含まれている道徳的な内容を発見することに集中してほしい」と著者マリニョ氏は語る。

 サンティアゴは、ヘロデ王の迫害によって、西暦44年頃にパレスチナで斬首刑されて殉教した聖人である。伝説によると、遺骸は小舟でスペインに運ばれ、ガリシアで埋葬された。9世紀に、聖ヤコブの遺骸が納められた墓が発見されると、発見地はサンティアゴ・デ・コンポステーラと名付けられ、やがてエルサレム、ローマと並ぶ巡礼地へと変貌した。

 網の目のようにヨーロッパ中へ広がるサンティアゴ巡礼路は、最盛期の12世紀には、巡礼者に加えて、貴族、商人、職人といった様々な職業の人、また文物が行き交う路となり、「豊かな文化交流の最大の水脈」となった。そして巡礼路では、「使徒サンティアゴの人生と死、さらに彼が行った奇蹟についての伝説も旅をした」という。旅をする過程で、サンティアゴは、福音伝道者、戦士、巡礼者へと姿を変えていき、民衆はその奇蹟に熱狂した。

 本書では、変容するサンティアゴ伝説が時系列で紹介されている。中世人の心が直接反映された伝説は、当時の世界観を知る手がかりになるであろう。本書を読み、伝説が生まれた「歴史的瞬間」に立ち会ってみるのはいかがだろうか?

          

文 福地恭子