Autor del artículo

Satoru Satoh
佐藤悟 / さとう さとる
1953年生れ。
東京外国語大学スペイン語学科卒業後、1977年に外務省入省。スペインで研修後、メキシコ、アメリカ合衆国、インドネシアの日本大使館に勤務。中南米局長、外務報道官を歴任後、2011年9月より在スペイン特命全権大使を勤める。現在、日本スペイン交流400周年事業を通じる日西関係の促進に全力で取り組んでいる。

皇太子殿下のスペイン御訪問
~日本スペイン交流400周年の開幕~

2013年08月

  スペインは、古くから我々日本人にとって多くの魅力を秘めた国です。今年は、1613年(慶長18年)、支倉常長を団長とする慶長遣欧使節団がスペインに向けて旅立ってから400年目に当たります。支倉一行は、仙台藩主伊達政宗の命を受け、大御所徳川家康の承認の下、東北の港(石巻市月の浦)から出帆し、約1年かかって太平洋と大西洋を渡り、スペイン国王フェリペ3世との謁見を果たしました。これは、日本がスペインに派遣した最初の日本人公式使節でした。

 このような史実を踏まえ、我が国とスペインは、政府間の合意により、2013年6月から2014年7月まで「日本スペイン交流400周年事業」(以下、交流年)を行うことになりました(公式サイト:http://www.esja400.com/jp参照)。期間中、日本とスペインの各地で様々な文化行事や交流事業が開催されます。この交流年を契機として、日本とスペインとの友好と交流が飛躍的に深まることが期待されています。

 そのような中、交流年の名誉総裁を務められる皇太子殿下は、6月10日から15日まで、交流年の開幕に合わせてスペインを御訪問されました。皇太子殿下にとって6回目のスペイン御訪問です。皇太子殿下は、マドリッドでスペイン王室と旧交を温められたほか、ラホイ首相との御接見に加え、「サムライ支倉の大いなる旅」と題する記念音楽会をはじめ5つの交流年開幕記念行事に御臨席になりました。さらに、サラマンカ、セビリャ、コリア・デル・リオ、サンティアゴ・デ・コンポステーラの4都市を精力的に回られ、各地で、市民からの暖かい歓迎や心のこもったもてなしを受けられました。皇太子殿下は、終始笑顔を絶やさず、真摯で親しみやすい態度で臨まれ、人々に好感を与えられました。スペインでは、テレビや新聞が、連日、皇太子殿下の動きを大きく報道したほか、終始、天気にも恵まれ、相互理解の促進と交流年の開幕を飾る素晴らしい御訪問になりました。


サンティアゴ巡礼道を歩かれる殿下


  皇太子殿下のスペイン御訪問の日程は、別掲の通りですが、印象に残った出来事をいくつかご紹介します。

国賓級のもてなし
 皇太子殿下は、スペイン側から心のこもった国賓級の接遇を受けられました。外国の国王や元首が泊まるパルド宮殿が宿舎として提供され、儀仗兵や騎馬隊を伴う壮麗な歓迎式典が行われました。また、国王王妃両陛下主催午餐会やフェリペ皇太子同妃両殿下主催晩餐会が盛大に開催されました。さらに、フェリペ皇太子殿下は、開幕記念行事の多くに皇太子殿下をご案内する形で参加されました。これらは、我が国皇室が長年に亘って培ってこられたスペイン王室との友情の深さと、日本との関係強化に向けたスペイン側の熱意を感じさせるものでした。



交流年開幕記念音楽会(6月11日 テアトロ・レアル劇場)
貴賓室に迎えられる皇太子殿下



ラホイ首相との御接見(6月12日 首相官邸)
ラホイ首相に迎えられる殿下


人々の心を打った皇太子殿下の御言葉
 皇太子殿下は、フェリペ皇太子同妃両殿下主催晩餐会でのスピーチの後半部分をスペイン語で行われました。東日本大震災の時、我々日本人は「逆境の時の友が真の友」という諺の意味を深く理解したと述べられ、スペイン国民から寄せられた激励や支援にする日本国民の感謝の気持を伝えられました。明瞭なスペイン語の発音とその内容は、晩餐会の出席者に大きな感銘を与えました。スピーチが終わると、別室で聞いていたスペインの報道陣からも拍手と歓声が上がりましたが、報道を通じ、多くのスペイン人にも感動を与えました。
 また、皇太子殿下は、10年ぶりに開催された日西経済合同委員会の開会式にフェリペ皇太子殿下とともに御臨席になり、御言葉の中で「創造的で進取の精神に富む企業家」の活躍に期待を寄せられるとともに、「困難に直面した時こそ思い切った策をとれ(A grandes males, grandes remedios)」とのスペインの諺に言及されつつ、厳しい経済状況の克服に国を挙げて取り組んでいるスペイン政府及び国民に対しエールを送られました。



ハポン姓関係者と御懇談される殿下



日本美術展オープニング(6月11日 プラド美術館)
屏風を御鑑賞になる皇太子殿下


熱狂的な市民の歓迎
 皇太子殿下は、各地で市民から暖かい歓迎を受けられましたが、特にセビリャ県のコリア・デル・リオ市では市民の熱狂的な歓呼を受けられました。同市は、支倉一行の一部が残留して子孫を残し、現在でも「日本」を意味する「ハポン」姓の人々が600人以上住んでいるところです。40℃に近い炎天下の中、かなり前から沿道を埋め尽くして待機していた市民や子供達が、日の丸の小旗を振りながら、当日の気温を圧倒する熱気とともに大声で「ナルヒート」と連呼しながら皇太子殿下を迎えました。皇太子殿下は、沿道の市民と親しく握手されながら交流され、グアダルキビル河畔に立つ支倉常長像の側に桜の木を植樹されました。
 また、皇太子殿下は、ハポン支倉協会会長が教師を務める市内の小学校を訪問され、授業を参観されましたが、震災復興の願いを込めて生徒が日本語で歌った「花が咲く」の合唱に深く感銘されたご様子でした。同小学校の校長によれば、今次殿下の御訪問は400年を経て、コリア住民にとって特別な存在である「日本」が帰ってきたということであり、皆が喜びの気持ちで一杯であったそうです。



ボタフメイロを御覧になる殿下



サンティアゴ大司教に迎えられる殿下


共感を呼んだ震災復興
 慶長遣欧使節団は、今から400年前(1611年)に東北地方を襲った地震・津波の2年後に、スペイン領メキシコとの交易開始に活路を求めて、復興努力の一環として派遣されました。今年は、東日本大震災から同じく2年後に当たることから、震災復興に焦点を当てた「元気な日本展」(共同通信等の協力による写真展等)が交流年の開幕行事の一つとして開催され、両国皇太子殿下の御臨席の下に開幕しました。スペインでは、一昨年10月、原発事故初動対応に当たった「福島の英雄達」にスペインで最も権威のあるアストゥリアス皇太子賞が授与されましたが、写真展を通じ、被災地の人々の共助と不屈の精神に改めて共感の輪が広がりました。元気な日本展は、今後一年間かけてスペイン各地を巡回することになっています。


サラマンカ大学日西文化センター御訪問(6月13日)
日西文化センター美智子様ホールを御視察される殿下
(写真提供:Comunicación Universidad de Salamanca)



御記帳される殿下
(写真提供:Comunicación Universidad de Salamanca)


歴史と文化を辿る旅
 皇太子殿下の今回の御訪問は、慶長遣欧使節団派遣から400周年の機会に、スペインとの交流の歴史を辿る旅となりました。皇太子殿下は、マドリッドで「支倉常長とその時代展」(支倉が国王に献上した漆器を含む南蛮漆器展)を、支倉常長家13代目当主の支倉常隆氏等とともに御鑑賞になり、また、セビリャのインディアス公文書館では「支倉常長関連古文書特別展」(支倉常長や伊達政宗の書状、UNESCO記憶遺産登録文書等を含む)を視察され、当時の歴史を偲ばれました。
 また、欧州最古の大学都市の一つであるサラマンカを御訪問になり、「市の鍵」を授与されました。天皇皇后両陛下の御訪問をきっかけに設立されたサラマンカ大学日西文化センターを御視察になった後、日本人技師により修復された大聖堂のパイプオルガンの荘厳な音色を御鑑賞になりました。
 さらに、キリスト教三大聖地の一つとされる、古都サンティアゴ・デ・コンポステーラを御訪問され、フランスやドイツから続くサンティアゴ巡礼道の終着点に近い区間を散策されました。ホタテ貝と瓢箪をあしらった巡礼者用の杖を片手に、行き交う巡礼者と「ブェン・カミーノ(よい旅を)!」と声をかけ合いながら歩かれました。サンティアゴ巡礼道は、その姉妹道である熊野古道ともにUNESCO世界遺産に指定されていますが、皇太子殿下は、既に熊野古道を歩かれており、二つの道を比較しながら自然と伝統を堪能されました。


「希望の丘」に到着された殿下


水の問題に対する学究的な御関心
 皇太子殿下は、水の問題が世界の人々にとって災害、貧困、衛生、環境等の面から極めて重要であるとの認識から、従来から国連水フォーラム等に積極的に参加されています。今回の御訪問においても、150年以上の歴史を持つマドリッドの上下水道管理公社を御視察になったほか、サラマンカ大学でも専門家と意見交換を行われました。皇太子殿下の学究的で熱心な姿勢は、関係者に強い印象を与えました。


サンティアゴ・ベルナベウ・サッカー競技場御視察(6月12日)
ペレス会長とピッチに立たれる殿下 (写真提供:realmadrid.com)


スペインの魅力の再発見
 皇太子殿下は、スペインの強豪サッカー・チーム、レアル・マドリッドの本拠地、サンティアゴ・ベルナベウ球技場を御訪問され、ペレス会長の案内で8万5千人の観客を収容する球技場のピッチの中央に立たれました。また、セビリャでは世界唯一のフラメンコ博物館を御訪問になり、フラメンコの起源と発展につき説明を受けられるとともに、往年の名ダンサーであるクリスティーナ・オジョスやマティルデ・コラル、伝説的な闘牛士クーロ・ロメロ等とともに、本場のフラメンコを鑑賞され、彼らと親しく懇談されました。このように、日本人を魅了して止まないスペインの魅力を再発見されました。


クリスティーナ・オジョス氏とフラメンコを御鑑賞される殿下
(写真提供:フラメンコ博物館)


 上述のように、今回の皇太子殿下のスペイン御訪問は、多彩な側面をもつ有意義なものとなりました。皇太子殿下は、御帰国後に文書で発表された「ご感想」の中で、今回の御訪問を次のように振り返っておられます。

「今回の訪問でも、多様なスペインの新たな魅力を発見し、また、多くの新たな出会いと交流がありました。」「今回の訪問を通じ、4世紀にわたる交流の歴史があるスペインとの友好関係が、歴史の積み重ねの中で、より一層緊密で強固なものとなっていることを確認でき、大変嬉しく思いました。」

スペイン駐箚日本国特命全権大使
佐藤 悟



皇太子殿下のスペイン御訪問日程
6月10日 - 12日(マドリッド)
 歓迎式典(パルド宮殿)
 在留邦人との御接見(大使公邸)
 日西経済合同委員会開会式(造幣局大ホール)
 日本美術展オープニング(プラド美術館)
 国王王妃両陛下主催午餐会(サルスエラ宮殿)
 元気な日本展オープニング(コンデ・ドゥケ文化センター)
 交流年開幕記念音楽会(テアトロ・レアル劇場)
 支倉常長とその時代展(南蛮漆器展)(装飾美術館)
 日本研究者との御懇談(同上)
 ラホイ首相との御接見(首相官邸)
 サンティアゴ・ベルナベウ球技場御視察
 マドリッド州上下水管理センター御視察
 フェリペ皇太子同妃両殿下主催晩餐会(王宮)

6月13日(サラマンカ)
 サラマンカ大学御訪問
 サラマンカ市庁舎御訪問及び市の鍵授与
 大学学長及び市長共催昼食会(フォンセカ迎賓館)
 サラマンカ大学日西文化センター 御訪問
 サラマンカ大聖堂パイプオルガン御視察

6月14日(セビリャ及びコリア・デル・リオ)
 コリア・デル・リオ市御訪問
  支倉常長像御視察・桜の植樹式
  ビセンテ・ネリア小学校・市庁舎御訪問
 セビリャ市長主催昼食会(アルカサル宮殿)
 アンダルシア州知事との御接見(州庁舎)
 支倉常長関連古文書展御視察(インデイアス公文書館)
 ハポン姓関係者との交流レセプション
 フラメンコ御鑑賞(フラメンコ舞踏博物館)

6月15日(サンティアゴ・デ・コンポステーラ)
 サンティアゴ巡礼道御散策
 モンテ・デ・ゴソ(希望の丘)御視察
 ガリシア州知事主催昼食会(オスタル・デ・レイジェス・カトリコス)
 サンティアゴ大聖堂御視察及び記念音楽会
 サンティアゴ空港発御帰国