特集

ESPECIAL

acueducto 31 特集「ロルカを思う。」

PDF記事

PDF掲載誌

ロルカ。あるいは夢見る力


平井うらら

 もう一つ、紹介します。「黒い鳩のカシーダ」です。

 

黒い鳩のカシーダ

月桂樹の枝のうえに

二羽の 闇のように黒い鳩が見えた。

一羽は太陽、

もう一羽は月だった。

「お隣さんたち」、僕は声をかけた、

「僕は どこに葬られるの?」

太陽は言った、「私のしっぽに」。

月は言った、「私ののどに」。

そのあと僕は 歩いていった

腰のところまで 泥に埋まりながら

そして二羽の 雪のように白い鷲と

裸の少女に出会った。

一羽は もう一羽と同じで、

少女は ぬけがらだった。

「鷲さんたち」、僕は声をかけた、

「僕は どこに葬られるの?」

太陽は言った、「私のしっぽに」。

月は言った、「私ののどに」。

月桂樹の枝のほうに

二羽の 裸の鳩がみえた。

一羽は もう一羽と同じで

二羽の鳩とも ぬけがらだった。

 

Casida del las palomas oscuras

Por las ramas del laurel 

vi dos palomas oscuras. 

La una era el sol, 

la otra la luna. 

«Vecinitas», les dije, 

«¿dónde está mi sepultura?» 

«En mi cola», dijo el sol. 

«En mi garganta», dijo la luna. 

Y yo que estaba caminando 

con la tierra por la cintura 

vi dos águilas de nieve 

y una muchacha desnuda. 

La una era la otra 

y la muchacha era ninguna. 

«Aguilitas», les dije, 

«¿dónde está mi sepultura?» 

«En mi cola», dijo el sol. 

«En mi garganta», dijo la luna. 

Por las ramas del laurel 

vi dos palomas desnudas. 

La una era la otra 

y las dos eran ninguna.

平井うらら 訳『対訳 タマリット詩集』影書房より

 哀切としか言いようがない、詩です。

 「太陽」と「月」とは、世界を支配する権威あるものの象徴です。彼らは、通常ありえない「黒い鳩」になったり、「白い鷲」になったり、「裸の鳩」になったりして、少年の前に現れます。しかし少年は結局、彼らにあしらわれていい加減な答えしかもらえません。少年が彼らから何の返事ももらえないことより、いっそう過酷に思えます。それは、裏切りでもあるからです。少年はいまも、魂が眠る場所を求めて探し続けています。恋をするはずだった少女さえ、裸で、誰とも特定できないぬけがらになってしまっていたのです。

 このようなロルカの詩が、80年前に作られた、文学史に残る記念碑としてではなく、なまなましいリアルとしてしか読めないのですから、ロルカはいまも私たちの傍らにいるのです。



平井 うらら / Urara Hirai

同志社大学講師 詩人

1952年香川県高松市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。京都外国語大学大学院修士課程修了。グラナダ大学博士課程修了。文学博士(グラナダ大学)。著書に『対訳タマリット詩集』(単著)、『平井うらら詩集』(単著)、『マヌエルのクリスマス』(単著)、『ガルシア・ロルカの世界』(共著)、『スペインの女性群像』(共著)、『スペイン文化辞典』(共著)など。

VOLVER

PAGE TOP