2015年08月
スペインは、フランスやイタリアと並ぶワインの一大生産国である。特にスペイン北東部のラ・リオハ州は有名だが、中央部のラ・マンチャ地方でも古くから美味しいワインが作られている。
ラ・マンチャ地方の「ワイン街道(Caminos del vino)」には、年間何千万リットルも生産する大きなワイナリーから小規模なものまで、沢山のワイナリーが存在する。その中に、特にエコにこだわりワインを作っている小さなワイナリー(Bodega La Tercia)がある。
ワイナリーは古い民家を改築したもの
ヘスス・サンチェス・アテオスさんは技術者だったが、20年前、かつてワイナリーがあった古い民家を買い取り、改築してワイン造りを始めた。33ヘクタールの畑で、有機栽培でブドウを育て、たった2人でワインを作りはじめた。5年前その量は、6万リットルだったが、現在は15万リットルにまで増えている。大きなワイナリーと比べるとまだ圧倒的に少ないが、それはヘススさんがエコと味にこだわっているからだ。防腐剤も一般的なワインの3分の1しか使っていない。すべてをできるだけ天然の状態で作ろうとするとそんなに大量にはできない、とヘススさんは言う。
ヘススさんのブドウ畑は代々受け継がれてきたもので、古い木が多い
ブドウの栽培には、農薬はまったく使わない。それを可能にしているのは、ラ・マンチャ地方特有の気候。冬の寒さと夏の乾燥した極端な暑さが害虫やカビの発生を妨いでいるのだ。ヘススさんのブドウの木は古いものが多い。樹齢100年を越えるものもある。古い木は実の数も少なく粒も小さいが、濃厚で甘い実をつけ、美味しいワインに適しているという。収穫の時期が近づくと、毎日ブドウ畑にきて注意深く実を観察し、収穫の日を決める。そして、ひと房ずつ手作業で収穫する。
収穫時期を決めるのは種の色
今も、古いワイナリーの施設を利用している
以前は、エコに関心の深いイギリスやドイツなどへの輸出しかなかったが、2011年、フロリダ国際ワイン・コンクールで金賞を獲得したこともあって、2013年からは日本にも輸出をしている。
収穫をするヘススさん
最近、増産するために郊外の倉庫をワイナリーにした
Bodega La Terciaでは赤・白・ロゼの3種類が作られている
作業には機械操作が欠かせないが、技術者だったヘススさんにはお手のもの
fotos ©︎Yuji Shinoda
篠田 有史 / Yuji Shinoda
1954年岐阜県生まれ。フォトジャーナリスト。24歳の時の1年間世界一周の旅で、アンダルシアの小さな町Lojaと出会い、以後、ほぼ毎年通う。その他、スペイン語圏を中心に、庶民の生活を撮り続けている。【写真展】冨士フォトサロンにて『スペインの小さな町で』、『遠い微笑・ニカラグア』など。【本】「ドン・キホーテの世界をゆく」(論創社)「コロンブスの夢」(新潮社)、「雇用なしで生きる」(岩波書店)などの写真を担当。