2016年05月
バルセロナ北西部の山間部に広がるブドウ畑
地中海に面した街バルセロナから車を30分ほど北西へとばすだけで、都会の喧噪とはまったく別の世界へ到着する。山と緑のなかに、精神障がいなどをもつ若者たちが労働者となり、ワインを造っている場所がある。
コルセローラ自然公園内のこの地域では、古くからワイン造りが盛んで、ブドウ畑が広がっていた。しかし19世紀、害虫によってブドウの木は全滅し、ワイン造りも途絶えていた。バルセロナ市は、ワイン造りの伝統を復活させようと、3ヘクタールの土地を買い上げてブドウの木を植え、社会的事業をおこなっている労働者協同組合「ルリべラ」に、ワインの製造を委託した。この組合は42年前から別の場所で、障がい者によるワインとオリーブ油の製造をしている。
ブドウのツルを針金に巻きつける作業
ここでのプロジェクトは2010年から始まり、現在12人(男11人、女1人)の若者たちが、ブドウ畑のそばに建てられた真新しい住居で、自立を前提とした共同生活を営みながら働いている。
共同生活をしながらワイン造りをする若者たち
仕事は、それぞれが無理のない範囲でおこない、強制は一切ない。取材したときには、5人がブドウのツルを針金に巻きつける作業をしていた。若者たちには、月々800ユーロの給金が支払われている。食費や住居費はいらないので、そのお金のほとんどは自立するときのために蓄えられる。彼らを支えるのは、農業技師2人、醸造家1人、それと心理・生活面の援助者1人だ。
ワインの製造は住居のそばの古い民家を利用しておこなわれており、年間1万5~8千本のワインが造られている。いまのところ、すべてバルセロナ市が買い上げ、市のイベントなどで使われているだけで、市場には出ていない。
古い民家がワイナリーとして利用されている
古民家内の発酵タンク
バルセロナ市に納められる「B」のイニシャル入りのワイン
エコワインの認定は厳しく実績が必要なので、まだエコワインのラベルは貼られていないが、実質的には有機栽培ブドウで造るエコワインである。市場に出るころにはエコのラベルが貼られるだろう。
ブドウ畑の上には近代的な住居が見える
住居は機能的で清潔に保たれている
光に溢れる部屋(2人で共有)
fotos ©︎Yuji Shinoda
篠田 有史 / Yuji Shinoda
1954年岐阜県生まれ。フォトジャーナリスト。24歳の時の1年間世界一周の旅で、アンダルシアの小さな町Lojaと出会い、以後、ほぼ毎年通う。その他、スペイン語圏を中心に、庶民の生活を撮り続けている。【写真展】冨士フォトサロンにて『スペインの小さな町で』、『遠い微笑・ニカラグア』など。【本】「ドン・キホーテの世界をゆく」(論創社)「コロンブスの夢」(新潮社)、「雇用なしで生きる」(岩波書店)などの写真を担当。