2019年07月

スペインの各分野で活躍する日本人にインタビューするシリーズ第六弾。
今回は、マドリードの和風カフェ「Wagashi Utatane」のオーナーの中森詩子さんにお話を伺った。

中森詩子｜Utako Nakamori
和風カフェ「Wagashi Utatane」
オーナー

TodoMadrid でインタビュー動画を配信中！

　詩子さんがスペインで和菓子を作りはじめたのは、「スペインで食べられなかったから。自分で作るようになって、instagramやFacebookに写真をアップしていたら、クラスをやってくれないか？　という話が来るように」なったからだという。

　そこで詩子さんは素人でもよければ、と断りをいれつつ、求められるままに練りきりなどの和菓子をスペイン人に教えていたものの、そのうちその評判を聞きつけたレストランなどからも要望が舞い込むようになる。

　レストランなどのプロの料理人の手によって提供される日本料理は、バリエーションもその数も増えているが、本格的な和菓子に関しては、技術も知識もスペインにはほぼないのが現状だ。そんな状況で、詩子さんの作る和菓子は、スペインの人々の注目を集めていった。

　そのようなニーズが増えていくにつれ、やるからには和菓子について学ぼうと思い立ち、日本への一時帰国を利用して「短期間でプロを養成してくれるという京都の学校に行って、学ぶことにしました」と語る詩子さん。やがてマドリード市内のグスマン・エル・ブエノ市場の中に、自らの和菓子を販売する拠点として、和風カフェWagashi Utataneをオープンした。

　そもそもは、「カフェテリアを作りたいというよりは、 日本の食を、文化や工芸を含めて紹介する場を作りたかった」という。その前段階で、人が集まる場としてカフェを作ってみたいと思ったそうだ。確かに、スペインのバルやカフェは、コーヒーやお酒を飲むだけではなく、人が集まり、文化が生まれる場だ。

　詩子さんのWagashi Utataneは、市場の中に出店したことで、通常の路面店よりもさらに大きな可能性を持つ。「もちろん日本が好きで通ってくれる常連さんもいるけれども、単に市場に買い物に来ただけで、日本にはまったく興味がなかった人に試食で出すと、『何これ？　美味しいわね』となるのも面白いと思っています」。

　さて、そんな和菓子のお店をオープンして、スペイン人たちの反応はどうだったのだろう？

「和菓子の認知度はまだ低いです。でも、気に入ってリピートしてくれる方もいて、それがとても楽しいです」

　カフェで売っている和菓子は、小豆・白あんのどら焼きや大福が主力。ドラえもんはスペインの子供たちにも人気なので「DORAYAKI」の知名度も高いものの、スペインで豆料理といえば塩味の煮込みが定番のため、甘く煮た豆を使った餡子に抵抗感を持つスペイン人は未だに多い。

　とはいえ、彼女自身がスペインに住んで和菓子を恋しく思ったように、「和菓子は(スペイン在住の日本人の)みんなもきっと恋しいんだろうな、と。そして、日本へ旅行するスペイン人も増えているし、旅先で知った和菓子をスペインでも食べられる、と知ってもらうのも楽しいなと思って」

　さらに「今は、日本でも和菓子が減っているから、日本に行っても食べられる機会は意外とないんですよね。そういう意味では、私が昔、田舎で食べていた味を、今マドリードで育っているスペインの子供たちに体験してもらえるのは面白いと思っています」という目論見もある。この市場のあるチャンベリ地区に生まれ育った子供たちにとって、もしかしたら、彼女の作る和菓子が「故郷の味」になる未来も夢ではないかもしれない。

　ちなみに、スペイン語については、未だに自信がないという詩子さん。

　結婚を機にマドリードへ移住したものの、「元々は家で手芸などをする生活で、スペイン語をまったくしゃべらない毎日だった。それでも、お店をはじめてみると、スペイン語を間違うことが恥ずかしくなくなった。文法や単語が正しいかどうかと考えるより、笑って『分かってよ』と言えたら、どうにかなるというのはあるような気がします」

　もちろんスペイン語のスキルは大切だが、それ以上にコミュニケーションしたいと思う積極的な姿勢がいろいろなハンデを補ってくれる。

　詩子さんの作る優しく美味しい和菓子があれば、鬼に金棒に違いない。

Wagashi Utatane
https://www.facebook.com/wagashiutatane
Calle de Andres Mellado, 43 PB
Mercado Guzmán el Bueno, Puesto8, 28015 Madrid