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acueducto 38 特集「¡SABOREAMOS UN BUEN JAMÓN! ハモンを堪能しよう!」

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ハモンを堪能しよう!


渡邉直人

¿Qué es el jamón? / 生ハムとは

 そもそも生ハムとは何か? 日本でその定義を答えられる人はプロを含めて1人もいない。「生ハム」は通称名であり、法律的な定義がないからだ。通称名の説明としては、熱を通していないハムだから生ハム。では、スーパーやコンビニで販売されている生ハムは? 実は、そうした日本の生ハムは、ほとんどが豚肉を調味液に漬けたり、豚肉に調味液をインジェクション方式で打ち込んで短期間(ほぼ数日)で乾燥させたりしてできた商品だ。同じ生ハムといっても、スペインの生ハムとは製法も製造時間・コストも全く違う別商品である。

 明治維新後、日本はドイツとアメリカの食肉技術からハムの製造を学んだ。そしてドイツ製法の生ハムを意識して、食品衛生法でも非加熱食肉製品の分類ができたが、これはスモーク製品を想定している(非加熱食肉製品に分類され、30分未満で中心温度63℃まで加熱可)。

 一方で、南西ヨーロッパに古来より伝わる、一切加熱されることのない長期熟成ハムは我が国で顧みられることがなかった。少なくとも2千年の歴史を有するスペインの生ハムは、日本を舞台にして言えば縄文時代や弥生時代の食べ物そのまま、古代から伝わる保存食なのである。

1万年前に現れた豚、2千年以上の歴史を持つハモン

 生ハムの原料となる豚は、約1万年前の新石器時代に人類がイノシシから造り出した動物だ。豚を入手したおかげで人類はいつでも良質かつ美味しい動物性蛋白質と脂質を摂取することが可能となった。豚の成立は、オリーブ、小麦、黒ブドウの栽培開始と時期を同じくする。肥沃な三日月地帯と呼ばれるアナトリア地方から始まり、その後でイベリア半島を含む地中海沿岸全体へと広まった。

 農耕と牧畜を確立させた人類は、食文化の飛躍的進化と豊かさを手に入れた。明らかとなっている最古の生ハムの製造方法は、今から2千200年前のレシピであるが、本来保存食の生ハムはそれより遥か以前から食されてきたことは想像に難くない。生ハムは人類が約1万年をかけてその豚肉の付加価値を最も高めた食品なのである。一方のワインは、人類が最もそのブドウに付加価値を高めた飲料である。だから実は、生ハムとワインはスペインのみならず、文明誕生後の人類の食文化の双璧を成してきたのである。

ローマ時代から評価されていたイベリア半島産ハモン

 イベリア半島の生ハムの歴史も非常に古い。ローマ時代にはオリーブオイル、ワイン、生ハムが半島からローマ本国へと供給され続けており、特に生ハムはイベリア半島産のものが非常に評価されていた。この半島は豚を放牧する森「デエサ」が果てしなく広がり、元来から放牧豚の飼育に適した地で、紀元前から美味しい豚肉が生産されていた。

 7世紀からイスラム教徒の支配下に置かれた800年間、この地ではワインも生ハムも禁じられることになったが、レコンキスタ後にキリスト教国となって以降は再び市場に出回るようになった。豚肉を食べるか否かで本当にキリスト教徒かを判断したと云われ、豚食文化がますます盛んになった。さらに、新大陸発見後のスペインは非常に財政豊かな黄金時代を迎え、高級食品である生ハムをたくさん消費するようになったと考えられている。

 豚食が禁じられた時代があるとはいえ、スペインの生ハム文化のルーツは紀元前ローマ時代にあり、今でもその基本的な特性は変わっていないのだ。

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