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『ゆかいなセリア』


川成洋

『ゆかいなセリア』
エレーナ・フォルトゥン 著
西村 英一郎・西村 よう子 訳

彩流社
■2018年1月刊
■定価2500円+税

 本書の舞台は1920年代のマドリード。まず、この時代のスペイン社会についてアウトラインを述べておこう。

 スペインは、第一次世界大戦に中立を宣言する。そのためにヨーロッパの交戦国に対する戦争特需で産業は急激に発展し、初めて輸出超過となる。しかし景気が好調になるも、物価は激しく騰貴する。1921年7月、スペイン領の唯一の植民地モロッコで解放軍とスペイン軍との軍事衝突が起こり、スペイン軍は壊滅、約8千人の戦死者を出した。この事件は政府、議会、軍部の間の激しい対立を惹起し、政局は大混乱を引き起こす。軍部の体たらくが暴露され、軍部と親密な関係と維持していた国王アルフォンソ13世に対する批判も高まり、モロッコ戦争反対運動も次第に激しくなっていく。内閣は頻繁に交代し、1923年9月、プリモ・デ・リベラ将軍がプロヌンシアミエント(蜂起宣言)を行い、秩序回復とモロッコ問題解決のために軍事政権の樹立を要求する。アルフォンソ13世はこれを認めてプリモを首相に任命した。この時、スペインがイギリス政治を模範としている立憲君主制を放擲したことになる。その後、プリモ独裁政権は世界経済恐慌のあおりを受けて1930年1月に総辞職する。

 このように激動する当時のスペイン社会。厳しい現実とは対照的に、人々に笑顔を取り戻させてくれるかのように、セリアの話は実に融通無碍である。

 本書の主人公はセリア。金髪、明るい目、大きな口をした7歳の少女。彼女はお茶目で天真爛漫、空想話をして相手をびっくりさせるのが大好きである。「とてもきれいです。ママがそのことをパパにこっそり言ったのを、セリアは耳にしました」と告白する、なんともおませな女の子である。

 セリアは、マドリード随一の高級宅街セラーノ通りで家族とともに暮らしている。恵まれた幸せな家庭環境——両親、弟、運転手、庭番、乳母、料理人、メイド、イギリス人家庭教師がいて、別荘のある——で育った。

 本書は、各篇に2~4葉のイラスト付きの、44篇の「セリアの物語」から成り立っている。いずれも予期せぬ子どもの万華鏡のような世界を垣間見せてくれる。
彼女が乳母のドニャ・ベニータと一緒にいた別荘で、飼い犬ダリラが7匹の子犬を産んだ。庭番のマヌエルはその子犬を川に捨てると言い、庭番の妻マリアはレタス畑を荒らすからと、子犬たちを棒で殴る。これでは、セリアは乳母と散歩に出かけられない。そこで干されていたマヌエルの靴下に1匹ずつ入れて隠す。だが、最後の1匹分の靴下が足りない。そこで乳母の小さなハンドバックに入れる。散歩から戻ると、靴下は子犬の重みで伸びきってしまい、乳母のハンドバックは子犬がおしっこをしたために変色していた(「ダリラの子犬」)。

 ドニャ・ベニータが耳にしてきた噂話によると、セリアの教会をインドの国王が買ってしまうという。そこでセリアは友達のカロティカと力を合わせて、自分たちで教会を買おうということになり、手持ちの全財産を密かに抱え、教会の神父さんのいる司教館に向かった。確かに聖堂には足場が組まれていた。だが、それはお祭りに使う塔修理用の足場だったのだ(「礼拝堂を買いに」)。

 そして最終篇の「アディオス」では「これからもみんなが笑ってしまうようないたずらをぜんぶ話すつもりです」と結んでいる。

 本書は、児童書《セリアシリーズ》12連作の第1作目(1943年)の邦訳版である。



川成 洋 / Yo Kawanari

1942年札幌で生まれる。北海道大学文学部卒業。東京都立大学大学院修士課程修了。社会学博士(一橋大学)。法政大学名誉教授。スペイン現代史学会会長、武道家(合気道6段、杖道3段、居合道4段)。書評家。

主要著書:『青春のスペイン戦争』(中公新書)、『スペインー未完の現代史』(彩流社)、『スペインー歴史の旅』(人間社)、『ジャック白井と国際旅団ースペイン内戦を戦った日本人』(中公文庫)他。

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