2018年10月
『フェデリコ・ガルシア・ロルカ 子どもの心をもった詩人』
イアン・ギブソン 文
ハビエル・サバラ 絵
平井うらら 訳
■影書房
■2018年6月刊
■定価2,200円+税
20世紀スペインが生んだ不世出の詩人で劇作家、フェデリコ・ガルシア・ロルカ(1898年~1936年)について、もう一度おさらいをしたい。今からちょうど82年前の1936年7月17日、北アフリカのモロッコでクーデターが勃発した。翌日、それを合図に、スペイン本土の約50ヶ所の陸軍駐屯地で一斉に軍事叛乱が起こった。このような場合、丸腰の民衆は武装した軍隊に跪くより方法がない。ところが、数日中に、マドリード、バルセロナ、そしてバレンシアの3大都市の軍駐屯地の軍事叛乱は、命懸けの民衆の武力抵抗によって鎮圧されてしまう。クーデターの失敗で内戦が始まったのだった。この時点で、市井の民衆側は、叛乱軍に対して、屈辱的な隷属よりも果敢な抵抗による「内戦」を、さらにはより良き社会を建設しようとする「革命」を選んだのだった。ここに、2年9ヶ月におよぶスペイン内戦の「原風景」があったと言えよう。
さてロルカは、内戦勃発のほぼ1ヶ月後の8月19日払暁に逮捕され、グラナダ郊外ビスナル村の「大いなる泉」のそばで、バルデス知事が雇った暗殺集団「黒部隊」によって銃殺された。彼の遺体は近くのオリーブ畑の脇に放置された。彼は、なんと37歳という若さであった。
まるで流れ弾による不慮の事故死のようである。
内戦の勝利者フランコ将軍は、ロルカの肉体とその分身である作品すべてを地上から消し去ろうとしたのだった。果せるかなというべきか、現在に至っても彼の遺骨は見つからないのである。
本書は、長年ロルカを研究し、彼の生涯を再現した評伝『ロルカ』(邦訳、中央公論社、1997年)を出版したアイルランドの詩人、イアン・ギブソンがロルカの生涯をスペインの子どもたちでもわかるように、やさしい言葉で書き、そのテキストに見合うように画家のハビエル・サラバが絵を描き、詩人の平井うららが翻訳(日西対訳)した、実にユニークな絵本である。本書に収録されている「日本の子どもたちへ」というエッセイでは、ロルカが20歳くらいの時の作品で、われわれ日本人にとっても懐かしい水田やサギが出てくる「神道(SINTO)」という不思議な詩を紹介している。
神道
金の鈴鐘。 龍の仏塔。
チリン、チリン、 水田の上を。
太古の泉。 真理の泉。
遠くに、 バラ色のサギが数羽
そして 静まりかえった火山。
(本書p.47より)
また本書巻末の、イアン・ギブソンによる評伝を活用した「ロルカミニ事典」では、詩人の暗殺を含む社会的背景、さらに詩人の全体像を詳らかにしている。これからロルカを学ぶ者の入門書としては、最適である。
川成 洋 / Yo Kawanari
1942年札幌で生まれる。北海道大学文学部卒業。東京都立大学大学院修士課程修了。社会学博士(一橋大学)。法政大学名誉教授。スペイン現代史学会会長、武道家(合気道6段、居合道4段、杖道3段)。書評家。
主要著書:『青春のスペイン戦争』(中公新書)、『スペインー未完の現代史』(彩流社)、『スペインー歴史の旅』(人間社)、『ジャック白井と国際旅団ースペイン内戦を戦った日本人』(中公文庫)他。