陽だまりに溶けていく絶望:『ペトラは静かに対峙する』


バルセロナ出身の奇才ハイメ・ロサレス監督作『ペトラは静かに対峙する』(原題:Petra)が、本年、日本に上陸。6月29日(土)より新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺ほか、全国で順次公開されます。関西の3都市(大阪・京都・神戸)でも8月上映予定。本作は2018年度カンヌ国際映画祭監督週間の正式出品作品。ある「真実」を追い求める主人公ペトラ(演:バルバラ・レニー)と、彼女が出会う人々の間で紡がれていくサスペンス。

 陽光に溶けていく、偽りと真実
カタルーニャの乾いた大地で繰り広げられる逃れられない悲劇の連鎖


舞台はカタルーニャ。若き画家ペトラは、作品制作のため、その道で大成し巨額の富を築いた老彫刻家ジャウメ(演:ジョアン・ボテイ)の邸宅を訪れます。けれども彼女の本当の目的は、ジャウメが自分の実の父親かどうかを確かめること。物語は彼女が邸宅に着いた初日の場面から始まります。家政婦テレサに迎え入れられた後、ジャウメの妻マリサ(演:マリサ・バレデス)と対面。

「アトリエでジャウメと作品制作をする」とマリサに挨拶するペトラ。突然の客に戸惑いながらも、ペトラを迎えるマリサ。

Mariza : ¿Qué buscas en el arte?
マリサ:芸術に何を求めるの?
Petra : La verdad.
ペトラ:真実。
Mariza : ¿La verdad? ¿Qué verdad?
マリサ:真実? どんな?
Petra : Una verdad.
ペトラ:”真実”としか。

「真実」は「偽り」と表裏一体で本作のキーワード。ペトラにとっては「真実」を明かすことが自らのルーツと直結します。創作活動の中で、一心不乱に巨大な「父」の肖像を画布に描き続ける主人公。果たして、ジャウメは本当に彼女の父親なのでしょうか。

ジャウメとマリサの息子ルカス(演:アレックス・ブレンデミュール)や、遂にジャウメ本人とも対面し、この一家との親交を深めていくペトラ。善良で薄幸であったり、あるいは、許しがたいほど残酷であったりするジャウメ家の人々。冷酷で権力を振りかざす家長の支配する敷地内で、ペトラは彼らと生活を共にするうち、当事者の1人として、逃れられない悲劇の連鎖へと巻き込まれていきます。悲劇の源にあるのは、寡黙な登場人物たちの仮面の下に徹底的に隠された本性と、「真実」。

透明感の溢れる風景が非常に美しく、それも本作の魅力の1つ。古き良き欧州の田園を連想させるような、陽光をいっぱいに浴びた黄金の草原を背景に繰り広げられる、静かなる惨禍。その縺れた人間模様はギリシャ悲劇を連想させますが、荒々しい激情描写は皆無。

だからこそ、人物たちが絶望に突き落とされた時、どこか遠い舞台から彼らの様子を眺めていたはずの観客は、なぜか自分自身の内部でその余波を受けます。音もなく、心を掴まれるような衝撃。

時系列にほどこされたある「仕掛け」も、観客との間に距離を生み出す章仕立て構成も、すべては監督の手腕で巧みに計算されたもの。映画の表現技法の底力を見せる怪作です。カタルーニャの美しき舞台で綾なす異彩なドラマを、皆さんもぜひスクリーンで堪能してください。


ペトラは静かに対峙する
原題:Petra|日本語字幕:伊藤美穂

監督・脚本:ハイメ・ロサレス
撮影監督:エレーヌ・ルヴァール
出演:バルバラ・レニー、アレックス・ブレンデミュール、ジョアン・ボテイ、マリサ・パレデス

2018年|スペイン、フランス、デンマーク|スペイン語、カタルーニャ語|107分|カラー|1:1.66|5.1ch|PG-12
©2018 FRESDEVAL FILMS, WANDA VISIÓN, OBERON CINEMATOGRÀFICA, LES PRODUCTIONS BALTHAZAR, SNOWGLOBE


配給・宣伝:サンリス
公式Facebook:@petra.movie
公式Twitter:@petra_movie
公式Instagram:@senlis_movie

6月29日(土)より新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開

公式サイト(特典付前売り券情報もこちら)

映画『ペトラは静かに対峙する』公式サイト

【6月29日(土) 新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開】映画『ペトラは静かに対峙する』公式サイト。2018年カンヌ国際映画祭監督週間出品作品。陽光に溶けてゆく、偽りと真実――気鋭のスペイン人監督がカタルーニャを舞台に描く、逃れられない悲劇の連鎖。

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