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Eco España vol.10 ケソ・マンチェーゴ


篠田有史

ひたすら草を食べ続けるマンチェゴ種の羊たち

「Uvas y queso saben a beso.(ブドウとチーズはキスの味)」という諺にもあるように、この組み合わせは絶妙の味わいをもたらす。ブドウは、ワインを作るために全国的に栽培されているし、もちろんそのままでも食べる。チーズ(ケソ)は、生ハムとならんでスペインでは欠かせない大昔からの加工食品である。スペインへ行ったときには、必ず食べるし、日本へは毎回もって帰る。その種類はといえば、もちろんケソ・マンチェーゴ(ラマンチャ・チーズ)である。ちょっと固めだが、羊乳独特の香りと深い味わいは、何ものにもかえがたい。

 今も、伝統に基づいた製法で、ケソ・マンチェーゴを作っている工場を見学した。場所は、ラ・マンチャ地方の真ん中、マドリッドから国道4号線を100キロほどアンダルシアへ向かい、左へそれて1キロばかり未舗装の並木道を行った先にある。一見農場のような外観の工場が見えてくる。会社の名前は「フィンカ・ラ・プルデンシアーナ」。

「フィンカ・ラ・プルデンシアーナ」へ続く並木道

 古くからラ・マンチャ地方では、麦の栽培と牧畜がさかんだった。麦の収穫が終わったあとに生える雑草を羊が食べるというサイクルが続いていた。今も、かなりの地域でこのサイクルは維持されている。

 「フィンカ・ラ・プルデンシアーナ」では、ケソを作るために同じ敷地で1000頭以上の羊を飼育している。種類は、毛長が短く、腹部に毛がない、暑さに強いマンチェガ種と呼ばれる羊である。この種類の羊のものしかケソ・マンチェーゴとはいえない。

 製法は、搾乳して集めた羊乳を5℃に保たれたタンクで1日保存したあと、凝乳酵素を入れて温める。そのあと凝固した部分だけを集めて型に流し込み、圧縮機に4~5時間かけ、それを塩水に約1日浸けたあと取り出し、低温倉庫で乾燥させ、熟成させる。この工場では、最低2ヶ月間は熟成させる。2~5ヶ月のものをセミクラード、6~12ヶ月のものをクラードと呼び、クラードの方がより強い味になる。

羊乳に凝乳酵素を入れて、攪拌する

固まり具合を見る

固まった部分を取り出す

型に詰める

型から出され熟成用のケースに入れる

熟成中のケースが積み上げられている

 昔は、カヤで編んだムシロを使って水分を抜いていたので、編み目の模様がついていたが、今は型に編み目がつけてあり、ケソ・マンチェーゴのトレードマークにもなっている。

 工場のまわりには広大な牧草地がある。ドン・キホーテとサンチョ・パンサが歩いていてもおかしくない風景のなかで、羊たちがひたすら草を食んでいた。

羊舎に入ると、羊たちがいっせいにこちらに注目する

fotos ©︎Yuji Shinoda



篠田 有史 / Yuji Shinoda

1954年岐阜県生まれ。フォトジャーナリスト。24歳の時の1年間世界一周の旅で、アンダルシアの小さな町Lojaと出会い、以後、ほぼ毎年通う。その他、スペイン語圏を中心に、庶民の生活を撮り続けている。【写真展】冨士フォトサロンにて『スペインの小さな町で』、『遠い微笑・ニカラグア』など。【本】「ドン・キホーテの世界をゆく」(論創社)「コロンブスの夢」(新潮社)、「雇用なしで生きる」(岩波書店)などの写真を担当。

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