2016年11月
19世紀の「工業コミュニティ」だった重厚な建築物
バルセロナの中心部から北東へ5キロほどのところに、古いレンガ造りの一画がある。19世紀に、縫製工場と労働者とその家族が住むための住宅や学校がおなじ敷地内につくられた「工業コミュニティ」だ。いまその建物の一部を利用して、MACUSというというグループが活動している。
MACUSが入っている建物
MACUSはカタルーニャ総合協同組合(CIC)がおこなってるプロジェクトのひとつで、Máquinas colectivizadas de uso social(社会的用途の共有機械)となっているが、簡単にいえば創造的なものを作りだそうという人々が集まっている共同作業場といったところだ。作業場のレンタル料は、月額1平方メートル、電気、水道、インターネット代込みで10ユーロと格安なので、若者たちも気軽に利用できる。
MACUSの運営責任者の1人エクトルさん
ここで、興味深い人物に出会った。いかにも電気関係の仕事場という雰囲気の一角で、彼は仕事をしていた。ダニエルさん(50)はかつては、オゾン発生器で水や空気を浄化する会社を経営していたが、子どもが独立したこともあり、 長年の夢だったお金を使わない生活をするために、仲間たちと6人で電気も水道もない村で暮らしを続けていた。が、娘に社会と繋がりのある生活をしてほしいと説得され、1年前にここにきたという。いかにも実直そうな彼は、12歳から独学で電気技術を身につけた。いま彼が作っているのは、1ユーロを入れると150リットルの水が出る、キャンプ場などで使う機械だ。
ダニエルさんの作業場
スタジオに改造した部屋では若者2人がビデオゲームの音楽を作っていた
現在20数人がさまざまなモノを創っているが、全員がリサイクルをこころがけ、全員で取り組むプラスチック・リサイクル・プロジェクトもあり、 廃棄物や中古品を集めている。
竹で自転車のフレームを作る
拾ってきたもので箱庭を作る
なお、利用者はかならずしもCICの組合員でなくてもよく、外国人でもかまわないという。
年齢も人種も違ういろんな仲間が集まる
fotos ©︎Yuji Shinoda
篠田 有史 / Yuji Shinoda
1954年岐阜県生まれ。フォトジャーナリスト。24歳の時の1年間世界一周の旅で、アンダルシアの小さな町Lojaと出会い、以後、ほぼ毎年通う。その他、スペイン語圏を中心に、庶民の生活を撮り続けている。【写真展】冨士フォトサロンにて『スペインの小さな町で』、『遠い微笑・ニカラグア』など。【本】「ドン・キホーテの世界をゆく」(論創社)「コロンブスの夢」(新潮社)、「雇用なしで生きる」(岩波書店)などの写真を担当。