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acueducto 40 特集「私の道にスペイン語があって。」

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言葉は生き物


仲井邦佳

Las palabras están vivas.

言葉は生き物

 これまでスペイン留学を3回経験しました。最初はナバラ大学外国人コース,2回目はバリャドリード大学大学院(同時に日本語教師も経験),3度目はサンティアゴ=デ=コンポステーラ大学に客員研究員として滞在しました。それぞれ,バスク文化圏,カスティーリャの中心地,ガリシア州の州都です。つまり,スペインの多様な文化圏の代表的なバスク,カスティーリャ,ガリシアで生活する経験をしたことになりました。スペインという国の魅力は文化的(言語的)多様性であることは多くの人が認めるところでしょう。スペイン語世界ではバリャドリードの教養あるスペイン語が通常,標準的なスペイン語とみなされています(もっとも実際には,この地方独特の癖もあります)。ナバラは特に北部にバスク語が残り,州都のパンプローナでも基本的にカスティーリャ語とバスク語の二言語標記です。カスティーリャ語の成立に際してバスク語は様々な影響を与えたとされています。例えば,vをbで発音すること(vivirを/bibir/と発音)は v の音を持たなかったバスク語の影響と考えられています。ガリシア語もまた興味深い言語です。ポルトガル語はスペイン語の姉妹語ですが,単純化して言うとガリシア語はカスティーリャ語とポルトガル語の中間的な性格を持っています。ガリシア語は私にはとてもやさしい響きに聞こえます。

 スペイン語を教えるにあたって心掛けていることがあります。文法「を」教えるのではなく,文法「で」教えるということです。本誌のこれまでの連載では,アカデミックな文法書や一般の学習書とは異なる用語や説明をあえて使用した箇所があります。間違っているのでは?と思われた読者もおられるでしょうが,私なりの工夫を試みたつもりです。

 日本人の学習者は文法用語に囚われ過ぎる傾向があるのではないかと思います。例えば,「接続法」という用語を気にし過ぎない方がよいでしょう。実際に「接続」,つまり従属節で使われることはもちろん多いのですが,独立文でも使われます。「接続法」はラテン語文法の名残であってスペイン語では必ずしもその性格を表現していません。

 言葉というものは生き物です。歳月とともに変化するし,状況によって様々な使い方をされます。ぜひ現地のスペイン語世界で生活しながら学ぶことをお勧めします。



仲井 邦佳 / Kuniyoshi Nakai

立命館大学産業社会学部教授。専門はスペイン語学。
著書に『はじめてのエスパニョール』(共著、三修社)、『中級スペイン語―文法と演習―』(共著、同学社)などがある。

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