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プラド美術館展 ベラスケスと絵画の栄光
飯尾由貴子(兵庫県立美術館)

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Diego Velázquez, El príncipe Baltasar Carlos, a caballo Hacia 1635. Óleo sobre lienzo, 211,5 x 177 cm.
ディエゴ・ベラスケス《王太子バルタサール・カルロス騎馬像》1635年頃 マドリード、プラド美術館蔵
©Museo Nacional del Prado

 

 本展のメインイメージとしても取り上げている《王太子バルタサール・カルロス騎馬像》はフェリペ4世の長男で王位継承者であったカルロス王太子の肖像画であり、ブエン・レティーロ宮の「諸王国の間」を飾るために両親である国王夫妻の騎馬像とともに描かれた作品である。「風景」の章に入っているのは王太子の背後に描かれた卓越した風景表現ゆえである。マドリード郊外、グアダラマ山脈を彼方に臨む広大な景観を、前景から後景へ青みを増していく色彩の微妙な諧調で描写しており、風景表現にも傑出したベラスケスの資質を余すところなく示している。この頃になると、初期の作品における強い明暗のコントラストによる重厚な人物表現は見られなくなり、透明度の高い色彩を用い、素早い筆致を重ね、対象の表面に降り注ぐ光のきらめきや質感を描き出そうとする試みが行われるようになる。

 1648年、ベラスケスは2度目のイタリア旅行に赴く。16世紀イタリアの巨匠たちの絵画や古代彫刻を買い付ける命を受け、ローマのメディチ家のヴィラを拠点に収集活動を行う一方で、ローマ教皇インノケンティウス10世の肖像画やヴィラ・メディチの庭園を描いた風景画など名作を残している。1651年に帰国し、翌年王宮配室長という要職に就き、多忙な公務の傍らウィーンのオーストリア・ハプスブルク家に嫁ぐことが予定されていたフェリペ4世の娘マルガリータ王女の肖像や、生涯の傑作《ラス・メニーナス》(1656年)、《ラス・イランデーラス》(1657年頃)を制作した。没する前年の1659年にはサンディアゴ騎士団への加入が認められるという栄誉に浴したのだった。

 ベラスケスは多作の画家ではなく、1623年以降、生涯フェリペ4世の宮廷で制作を続けたため、19世紀後半に印象派の画家エドゥアール・マネによって「発見」されるまでスペイン国外で広く知られた存在ではなかったという。しかしまさに近代における発見はベラスケスの近代性を示す証左となる象徴的な出来事であったといえるだろう。対象の貴賤に関わらず率直で真摯なまなざしを向ける画家としての姿勢、一見単なる色の染みにしか見えない斑点が一定の距離で眺めたときに像を結ぶというような、人間の視覚についての認識、あたかも現実空間と交錯するかのように仕組まれた巧みな空間構成など、近代絵画へと続く諸要素、先見性をベラスケスの絵画は内包している。このような絵画への知的な取り組みと同時に、描かれた作品は決して冷たいリアリズムではなく、現実への飽くなき関心にもとづく深い人間性への洞察に満ちている。これこそがベラスケスの絵画が今日の我々を魅了してやまない理由なのではないだろうか。本展はプラド美術館からベラスケスの作品をはじめ17世紀スペインにおける絵画の栄光を具現した傑作が多数出展される奇跡のような展覧会である。日本での邂逅を筆者も心待ちにしている。

 

展覧会情報は公式サイトでチェック:artexhibition.jp/prado2018/

 

 


TEXTO = Yukiko Iio
文:飯尾由貴子(兵庫県立美術館)

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