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acueducto 36 特集「フラメンコ人生、若手が輝く」

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日本フラメンコ協会主催「新人公演」について


濱田慈郎, 小林伴子

一般社団法人日本フラメンコ協会(ANIF)主催
「新人公演」について
TEXTO = Jiro Hamada

 フラメンコの踊り(バイレ)、歌(カンテ)、ギターを志す人びとの大きな関心事である「新人公演 / フラメンコ・ルネサンス21」は、例年ほぼ8月に開催されている。主催する一般社団法人日本フラメンコ協会(会長:濱田滋郎、理事長:小島章司)は発足が1990年7月、すでに30年近い歴史を持つ団体で、現在ほとんど全国にわたって800名近くの会員を持っている。会員の大部分は舞踊家を中心としてフラメンコを実践する人びとだが、中にはフラメンコを研究する人びとや、単にファンとして愛好するだけの人びとも含まれる。会が掲げる目的は日本におけるフラメンコの振興、発展で、『力を合わせて初めてできることがある。われわれは心の絆を持って集う、1人ひとりが輝くために』をモットーに歩みを進めてきた。

 1991年に第1回を催し、一度だけ抜けた年はあったものの毎年の大切な行事として続けてきた「新人公演」は、3日間開催(金曜日夜、土曜日・日曜日の昼から夜)を通例とし、年によって異なるが、舞踊(バイレ)ソロほぼ70名、群舞数組、歌(カンテ)ソロほぼ15名、ギター・ソロほぼ10名の出演者を数える。日本におけるフラメンコの通例として舞踊は女性が圧倒的に多くなり、歌も女性が優勢、ギターのみはほとんどが男性である。年齢は10代から60代、時には70代と幅広く、「新人」という言葉はいわゆるプロではない、の意味で使われるので、必ずしも若い人だけとは限らない。公演はあくまでもフラメンコを公に皆で“楽しむ”ことを主眼とし、厳しい目で採点を行い優勢をつけるコンクールではないことを謳っているが、出演者の「励み」とするため、例年「奨励賞」を設け、協会理事たちや、外部から招く有識者たちが選定委員を務める。「奨励賞」受賞者をはじめ、歴代の出演者たちの中から、現在日本のフラメンコ界を背負って立つような人材が輩出しており、水準は年々高くなっていることも疑いない。

濱田 滋郎 / Jiro Hamada
音楽評論家、スペイン文化研究家。1935年東京生まれ。翻訳、雑誌寄稿、レコード解説などのほか、東京藝術大学、桐朋学園大学、東京外国語大学、立教大学ほかで講師を務める。NHK-FM放送クラシック音楽・民族音楽の番組にレギュラー出演。1989年には教育テレビ「市民大学」講師として南米フォルクローレを講ずる。主要著書『フラメンコの歴史』『エル・フォルクローレ』(晶文社)、『スペイン音楽のたのしみ』(音楽之友社)、『濱田滋郎の本』(現代ギター社)、『ギターの名器と名曲』(ナツメ社)。訳書にカーノ『フラメンコ・ギターの歴史』(パセオ社)、ユパンキ『インディオの道(小説)』(晶文社)ほか多数。現在、日本フラメンコ協会会長、スペイン音楽こだまの会主宰。1984年第3回葦原英了賞受賞。


フラメンコは生きている
TEXTO = Tomoko Kobayashi

 日本フラメンコ協会が設立されたのは、私が8年にわたったスペイン修業に区切りをつけて日本で活動を始めてほどなくのことでした。企画段階から声をかけていただき、発足と同時に喜んで参加いたしました。新人公演の立ち上げ当初は、出演希望者が少なく直接お話ししたり、電話で皆さんに出演や出演者の紹介をお願いして何とか開催に漕ぎ着ける、といった今の盛況からは考えられない状態でした。 あれから30年近くが過ぎ、フラメンコの状況も大きく変わりました。新人公演も3日間にわたり熱演が繰り広げられる充実した会となり、今では皆さんに待ち望まれるフラメンコ界の一大イベントに成長しました。公演には様々なスタンスで真摯にフラメンコに向き合っている方々が一堂に会し、フラメンコの今と伝統が同時に見られる場となっており、毎回見ている私にもとても楽しみな会となっています。

 現代は昔よりスペインとの行き来も手軽になって、ネットでスペイン人の公演情報も教室情報もすぐに得られるようになり、また最新から過去の音楽や映像まで簡単に見ることができるようにもなりました。私がスペインに行った40年前には、携えたスペイン語の辞書と同じ位の大きさのテープレコーダーが最新で、録音して学習する方法が始まった頃でしたし、その前の世代の方々は、録音すら無かったのですからまさに隔世の感です! また世界的なグローバル化の中でスペイン本国でも、フラメンコ音楽、舞踊の技術的変革が著しいように見受けられます。当協会の濱田会長が常々、フラメンコはアンダルシアに定着するまでに世界各地の文化を吸収して形成されてきた、とてもグローバルなジャンルだと仰っています。フラメンコは正に今現在も様々な情報を吸収しながら進化し続ける、生きている伝統芸能と言えるでしょう。

 トラディショナルな物も最先端の物も、様々なスタイルが混在して、それぞれにクオリティーを求められる。そこが新人公演の良いところだと自負しています。フラメンコに励む皆さん、現在の豊かなフラメンコの環境を大いに活用して、なりたい自分に近づいてください。そして実り多いフラメンコ人生を楽しんでください!

小林 伴子 / Tomoko Kobayashi
多摩美術大学彫刻専攻卒業。1978年スペイン留学、フラメンコを中心にスペイン舞踊全般を学ぶ。1983年スペイン王立舞踊高等芸術学院(コンセルバトリオ・デ・マドリー)の公認スペイン舞踊師範資格を取得。1985年帰国後高田馬場にスペイン舞踊スタジオを開設。舞踊団と共に公演多数。1991年「赤い靴・私抄」にて文化庁芸術祭賞受賞。2000年「カスタニュエラ」公演にて河上鈴子スペイン舞踊賞受賞。「スーパーカスタネット」ほかフラメンコDVD出版多数。日本フラメンコ協会副会長。

小林伴子フラメンコ・スペイン舞踊教室
ラ・ダンサ
〒169-0075 東京都新宿区高田馬場4-8-2
Tel & Fax:03-3360-6656
www.la-danza.net


日本フラメンコ協会公式サイト
www.anif.jp

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