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acueducto 36 特集「フラメンコ人生、若手が輝く」

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新人公演出演:大塚歩


大塚歩, 土屋満章(Chaqui)

 ある時フラメンコに対して逃げ腰になっている自分に気付き、そんな自分を変えたくて新人公演に出ました。練習を進める中で、無意識のうちに、また時には意識的に、奨励賞を目指さないはずもありませんでしたが、特に直前の1週間は何をやってもうまくいかず、楽しくないしワクワクもしない、このまま本番を迎えるのかと弱気になりました。最後はできることしかできないんだ、と開き直って臨みましたが、踊っている間は心から楽しく、歌とギターとパルマの3人が彼らの素晴らしいフラメンコを惜しみなくぶつけてくれたことが嬉しくて、もう別に賞という形に残らなくても宝物をもらえた気持ちで、それだけで今回挑戦した意味があったと思えました。  フラメンコを習い始めた頃より、今の方が、フラメンコが遠い存在に思えます。やればやるほど分かりません。やればやるほどその難しさや深さに心が折れそうになるばかりです。けれど、今までに何度も経験したワクワクする一瞬のために、やっぱりフラメンコが好きだという気持ちが消えないので続けています。そんなワクワクする瞬間というのは、ぼーっとして待っていれば勝手に起きるわけではないですし、自分1人で起こせるものでもないと思っています。ギタリストや歌い手や他の踊り手との経験の差とか、スペイン人と日本人の差とか、「差」をあげたらキリがないし、自分に足りないものをあげ始めたらイヤになって家に帰りたくなってしまうけれど、同じ舞台に乗っている以上は、どんなに自分がちっぽけであってもしっかり自分の足で立って、そこで起こっていることを感じて、食らいついていく。みんなと同じ方向を見て、みんなでワクワクする瞬間に向けて、探しあって、バトンを渡しあっていく。私は怖くてすぐに逃げたくなってしまうけれど、そういう気持ちと姿勢を持って、これからもフラメンコを探していきたいなと思っています。  フラメンコの歴史的な成り立ちとか、ヒターノの話とか、ちょっと聞いただけでも気が遠くなるほど自分と接点がないし、今思えばなんてものに手を出してしまったんだろうと思います。フラメンコなんて始めたら大変だよ、と過去の自分に教えられるならば教えたい。でも大変だけどなぜか好きでまだ続けています。

 やればやるほど分からなくなるフラメンコは、始めた時よりも難しくて怖いものにもなりましたが、だからこそ、勝手な解釈じゃなく、たくさん失敗もしたり恥もかいたりしながら勉強して、笑ったり泣いたりを続けていきたいです。

©︎Yuki Omori

大塚歩公演情報
2019年2月11日(月)
[東京] スペイン料理 アルハムブラ
2019年2月24日(日)
[東京] ライブビストロ ノヴェンバー・イレブンス
2019年3月10日(日)
[群馬] スペイン料理 エル・ヴィエント
2019年4月12日(金)
[東京] タブラオ カサ・アルティスタ

大塚歩さんについて

 プロの舞踊家も今や星の数ほどになった今、若手がフラメンコで名声を得るのは困難を極める。そんな中、とても鮮度の良い技と音楽センスを感じさせてくれた舞踊家が大塚歩さんだった。20年にわたり私たちのスタジオに通う生徒さんたちが、早速彼女のレッスンの受講を希望して始まった。時々飛ばすジョークで場を和ませ、笑いをとりながらも指導となれば指摘鋭く熱い。時折ポロっとスペイン語と関西風常套句『知らないけど』が出る。大きな声、ストレートな物言いはレッスン中、止まることなく続く。まるで日本語上手なスペイン人という印象だ。それでいて細かいことを気にする『気にしい』でもある。生徒の癖で気になる所は徹底して何度も何度も反復する。アユミ流の愛の鞭と飴トークで楽しい時間を展開してくれる。ゆったり生きる静岡人には、テンポの速さに戸惑いも見えるが、ぎゅうぎゅうに詰め込んだ鞄の様に中身の濃いレッスンである。

アーボンハウスフラメンコスタジオ主宰 土屋 満章(Chaqui)

アーボンハウスフラメンコスタジオ
〒424-0818 静岡市清水区江尻町2-16
Tel:054-363-1414
aabon.net

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