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acueducto 39 特集「スペイン在住の日本人6人。スペインで為せば成る!」

平岡正徳(シドレリアコンサルタントを目指して / サン・セバスティアン在住)


シードルを日本に普及させたい。
食文化の発達しているスペインで
調理道具を売ることも考えている。
たとえば、日本の包丁。

スペインへ行くことになったきっかけはなんですか?

 初スペインは、2002年のガウディ・イヤーでバルセロナに2~3週間滞在した時。当時26歳、貧乏旅行で食事はパンとサラミばかりで、まだスペインのご飯の本当の美味しさを知りませんでした。この時は、地中海の空の青さと太陽の高さがとても印象に残っていました。その後、スペインとはしばらく縁がなかったのですが、ある日、徳島の阿波踊りイベントで、ちょうど日本を一周中のケルト人と知り合い、彼にエル・カミーノを歩くことを強く勧められ、さらに、たまたま好きな映画監督が撮ったカミーノの映画『星の旅人たち』が公開され……いろいろな偶然が重なり、これはぜひ歩かなければ、という想いに駆られて40歳になる年にカミーノを歩きました。

 巡礼者として旅していると、現地の人たちはとても優しくしてくれて、そこでスペインにまた新しい印象を抱きました。ログローニョで初めてピンチョスに出会い、とても小さなこの食べ物へかけられた情熱にものすごい感動を覚えました。その後も、いろいろな土地の料理を食べましたが、巡礼中にバスク料理の評判を聞いてぜひと思い、巡礼後にサン・セバスティアンを訪れて毎日食べ歩き&食い倒れ。この街は、綺麗な海もあり、山もあり、非常に暮らしやすくてすっかり気に入ってしまいました。その後、移住を決めるまでサン・セバスティアンを数回再訪し、やはり住むならここがいいな、と判断して長期滞在へ。そこそこ発展している観光地なのでここなら仕事もあると思いました。2019年秋現在は、ちょうど長期滞在を始めて1年ほど経ったところです。

Día de San Sebastián(1月20日)にとあるソシエダで撮影。

どんな仕事をしようと思いますか?

 サン・セバスティアンでどんなニーズがあるか考え、いろいろなバルやレストランを食べ歩いているうち、日本の包丁を使っているお店が結構あることに気付きました。ただ彼らは正しい扱い方を知らないので包丁の刃がボロボロになっていました。それを見て、日本人の私がここで切れ味の悪くなった包丁を生き返らせたいと思い、研ぎ師になろうと考え、研ぎ方を習いました。でも本当は研ぎ師になるよりも、包丁を彼らに販売したい。私の好きな言葉で「金鉱でスコップを売れ」というものがあります。つまり、これだけ食文化の発展している場所だから、調理道具を売る商売がいいんじゃないか、と思っています。将来的には、本業で目指しているものと別に、包丁ビジネスにも力を入れたいと思っています。

本業として実現しようとしているものはなんですか?

 2018年1月に移住者歓迎国のオランダにいて、最初はこの国に住んでスペインで働くという方法も検討していました。けれども、冬のオランダは人柄も気候も冷たくご飯もそんなに美味しくないという印象で……同じ月にたまたまサン・セバスティアンのシドレリアに行ったら、そこのご飯は非常に美味しい、雰囲気もまた楽しい、体験型アトラクションみたいなところも面白い、隣の人が普通に話しかけてくれる、オランダとは180度違うと感じました。

 シードルはアルコール度数も低いし、そのリンゴの甘みと酸味の効いた味自体も好きになりました。さらに今は日本で法律が変わってアルコールが製造しやすくなり、クラフトビールもヒットしていますよね。日本にりんご農園はたくさんあるから、シードル製造のポテンシャルも高いはずなので、サン・セバスティアンで修行をして、日本に普及させるシドレリアコンサルタントを目指しています。まだ同じものを目指している人がいないので、この分野のパイオニアになれたらいいなと思います。そこで現在、修行のため雇用してくれるシドレリアを探して就職活動中です。何件か問い合わせていたら、スーパーでも目にする老舗シドレリアが興味を持ってくれました。もし雇用が決まって就労ビザが下りたら、ここでこれからも長く生活して、シドレリアの知識やノウハウを身につけていきたいと思います。

平岡さんが通う現地のシドレリアの内部。レストランが併設されていて、シードルと地元の料理をたっぷり堪能できる。

スペインで幸せな瞬間

 バル文化を楽しめること。ニューヨークやパリなどの他国の都会なら、それなりにお金を払えば美味しいものが食べられます。それに比べるとスペインは、気軽に安く、とても美味しい料理を食べることができるという点で異なります。サン・セバスティアンの街が安全で日が長いということもあり、老若男女問わず住民がバルで楽しんでいて、夜遅くまで子供たちだけでサッカーを見に来ていたり、おばあちゃんたちだけで出歩いてバルに来ていたり、そんな自由で温かい文化にも魅了されました。

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