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acueducto 39 特集「スペイン在住の日本人6人。スペインで為せば成る!」

中井経賀(整体師 / マドリード在住)


私自身も
「好きなことを好きな場所で」
という考えを持っているが、
スペインはそれが
実現できる国だと思う。

スペインへ行くことになったきっかけはなんですか?

 もともと私はプロサッカー選手になりたくて、1998年に19歳でスペイン留学しました。バルセロナ現地の語学学校や大学でスペイン語とサッカーを学びながら、いろいろなチームのテストも受けてみましたが結果は及ばず、2年後に帰国。けれどもこの時スペインのライフスタイルが気に入り、今度はプロの選手を支える裏方になって戻ろうと考えました。留学前には早稲田大学でスポーツ医学を専攻していたのですが、帰国後に復学してから手の技術で病気を治す指圧や整体と出会い、大学卒業後、整体師の経験を積んでから26歳で再びスペインに来ました。

仕事をどのように実現させましたか?

 マドリードとバルセロナに全部で2週間滞在し、就職活動を始めました。現在のようなGoogle検索もない時代。イエローページの「Fisio(物理療法)」や「Spa(メディカルスパ)」という単語を追いながら、市内の整体院を調べて、地図を片手に足を運びながらの地道な職探しでした。とにかく、根性ですよ。訪問先では履歴書と、少しでも自分を印象付けようと、折り鶴を置いて帰りました。おおよそ30件くらい回った頃、とうとう雇用してくれる整体院が見つかり、スペインに来てから1年後に就労ビザが下りました。そこでしばらく働いてから自営業ビザに切り替えて、28歳でマドリードに自分のクリニックを開業。けれども日本に溢れている整体院やマッサージ店は、スペインではその存在はほとんど知られておらず、治療マッサージの概念を知らない人が大半です。だから患者さんにその概念を教育するのには苦労します。そこで少しでも治療をイメージしやすいように、仕事中は白衣を着るようになりました。

仕事のお客さんは、どんな人たちですか?

スペイン人:98% 日本人:1% その他:1%
男性:45% 女性:55%
主な年齢層:40〜60代

 初めて来院するお客さんのほとんどは「Yoshiのクリニックに来たら治る、よくなると言われた」という、人からの紹介で訪れます。彼らはどんな名前のマッサージ技術でサービスを提供しているか深くは理解していないにも関わらず、友人や親戚が言ったことだけで来院するのは、凄い口コミの力だなと感じました。またある日、日本車を所有している患者さんが「日本の車は壊れないし安全だしとても信頼している。だから、君のことはわからないけれど、きっと日本人の物はいいから信頼するよ!」と言ってくれ、それをきっかけに、急に日本車を買える層からの評判がよくなったのを覚えています。つまり、私のような来た当初は何も持っていなかった青年が、今こうやって外国で生活できているのは、もちろん自分自身の技術もあるだろうけれど、先人の日本人の努力のおかげ。日本人というだけで、すでに信頼という下駄を履かせてもらっているのです。だから私自身も、そのバトンをまた次の人に渡せるように努力しないといけないと思っています。

中井さんのクリニック内の個室は、和風テイストの温かなインテリア。

バケーションはどうしていますか?

 昔は夏に1ヶ月間休んでいましたが、最近はあえて2週間に短縮(1ヶ月も休むと仕事のやり方を忘れてしまいます!)。スペイン人は1ヶ月まるまる休む人も多いですが、皆バケーション明けは仕事のペースをすっかり忘れていて、9月ボケがひどい。スペイン人の仕事の生産性が元に戻るのは10月くらいからでは? ただ、中には「バケーション中にしっかり休むからこそ、自由な発想、クリエイティビティが出てきて、休み明けの大きなビジネスチャンスになる」という意見もあります。休みをたっぷり取る国だからこその仕事への考え方で、面白いですよね。

スペイン暮らしを振り返って、性格や考え方に変化はありますか?

 仕事ありきの人生ではなく、人生を楽しむための仕事に変わりました。ここではやりたいことを選択して自己実現している人が多いのです。たとえば道端で自由に芸術活動をしている人たちに対して、皆が寛容。そんなことをしたって稼げないのに……と批判的な目で見るのではなく、それぞれが選んだ進路を尊重する。だからこそ、この国ではレベルの高いサッカー選手や芸術家が育つのではないでしょうか。

スペインで幸せな瞬間

 生活全般。自分の選んだ道でスペインにやって来て、やりたくないことはしない選択をしてきた結果、気が付けば自分の好きなことして生きる楽しい人生になっていました。

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