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第1回 アーモンド


片岡治子

 江戸時代に南蛮船で来日したポルトガル人が日本にもたらしたというアーモンド。ヨーロッパにおける起源は紀元前4000年と古く、紀元前300頃に中近東よりギリシア経由でイベリア半島に持ち込まれ、その後、ローマ人たちの優れた農耕技術により、その栽培が地中海沿岸地域を中心に定着していったのだという。

 約800年間に渡りスペインに残した巨大な足跡であるアラブの食文化を代表する食材であるアーモンドは本来、その他の乾燥ナッツやドライフルーツと同様、新鮮な果実の少なくなる冬期の大切な保存食だった。干し柿のようなものである。

 中世の頃までは王侯貴族や上流階級の人々の高級嗜好品とされ、宴の席などの国王のテーブルにはアーモンドが添えられたという。カトリック教国スペインにおいて、時として王室以上の政治力、経済力を持ち合わせていた教会や修道院だからこそ、おそらくアーモンドをお菓子に使うことが出来たのだろう。

 アーモンドの実は、クリスマス期のトゥロンやマサパンだけでなく、その他の製菓材料、煮込み料理やソースの材料として、通年、幅広く活用される一方で、アーモンドオイルを原料にしたローションやシャンプー、クリームは、皮膚の炎症を抑える効果が高い上に副作用が少なく、美容・健康面で非常に重宝されている。また、アーモンドミルクは乳糖不耐症の人でも飲めるコレステロールを含まない良質な栄養飲料として自然派食品店の棚を陣取っている。小児科医が幼児の治療にアーモンドオイルやミルクを勧めることも少なくない。更には、消化を助ける効果や、食前に数粒、食べることによって、悪酔いや二日酔いを防ぐ効果もあり、“一粒で二度おいしい”などと言っている場合ではない。

アーモンドとサラソネス(魚の塩蔵品)は伝統的な組み合わせ

 こうした効果は今でこそ研究結果として明確にされているものの、遥か昔の人たちは生活の中でその大切さを身に付けていったのだ。レストランで、軽く揚げたアーモンドが程よい塩味で出てくることがあるが、食前のアーモンドは、美味しいだけでなく健康管理の面もフォローしてくれる絶好のおつまみだと言える。

 ヘブライ語で“目覚め”を意味するというアーモンドの木は、2月初頭頃には他の木々よりもいち早く優しいピンク色の花を咲かせる。スペインに春を到来を知らせてくれるのだが、二日酔いの朝の目覚めをスッキリさせくれるのもまた、アーモンドなのである。

世界に誇る最高品質のマルコナ品種は「アーモンドの女王」

アーモンドを使ったクリスマス菓子として有名なトゥロン

※マルコナアーモンドは日本から購入可能です。ご要望の方は下記のアドレスまでご一報ください。
オルカ・スペイン
www.orkaspain.com / orka@orkaspain.com



片岡 治子 / Haruko Kataoka

大阪府出身。1991年より渡西。スペイン全土を食べ歩きののち、「食」や暮らしに関するコラムやレシピ執筆。様々な業務経験を経て、現在、バレンシアを拠地に飲料、食材・食器の輸出、卸販売ほか、スペインの「食」をトータルで日本へ届ける『オルカ・スペイン』代表。ブログ媒体を通してスペインの内側から見る「食」を紹介するほか、体験版グルメツーリズムにも積極的に取り組んでいる。執筆依頼も可。

スペインの「食」を日本に届ける『オルカ・スペイン』
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