スペイン味うぉっちんぐ

第2回 米
片岡治子

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 バレンシア市内より約10キロ南方に位置するアルブフェラ湖一帯は自然公園にも指定されるスペイン最古の水田地帯である。“Albufera” の名はアラブ語で「小さな海」を意味する“albuhayra”を語源とし、8世紀後半にアラブ人によりもたらされた稲作技術と灌漑技術は、この一帯を基点にセビーリャや、エブロ河といったスペイン各所へ広げられていったそうだ。

かつては海の一部であった湖の水田の土壌には今も貝殻などが残っている。ミネラルを含む栄養素が多く質の良い米となる

 今やスペイン料理の代名詞的存在の“パエリア”は、実際にはバレンシア地方の郷土料理にほかならず、パエリア発祥の地とされる湖畔の小さな村エル・パルマールには、昔ながらの薪炊きパエリアの店が沢山ある。村人が各自で捕獲、飼育、栽培した食材を持ち寄って作ったのが始まりで、今でも、この辺りでは湖の鴨を使うことが多いらしい。“バレンシア風パエリア”に投入しても許される食材に暗黙の了解があるのが理解できる。

 表面積21,000ヘクタールにも及ぶ大きな湖は、1万年以上前は地中海に向けて広がっていた湾口だった。湾を挟んで西方から海に流れ込む二大河川の河口部の砂が水圧により少しずつ押し上げられ、18世紀頃には一部の水門を除き、ほぼ完全に湖と海は隔てられたのだという。その後、水を塞き止め、別の場所より小舟で泥を運び入れる作業が延々と進められ、約70年前には湖全体の4/5が水田に開墾されたらしい。

 ちなみに、遊覧船乗り場にある1万年前の歴史イラストマップには地中海にドラゴンの絵が描かれているが、実在したのかどうかはスペイン人のすることなのであまり本気にしない方がいい。

収穫された米の60%が精米となり、残りの40%は家畜用の籾がら、ふすま、砕き米となり、最終的に剥がれる精米の発芽部分も、ふすまと一緒に利用されている

1 万年前から現在までの地形変化を表すイラストマップ。ドラゴン同様、巨大クジラの存在も謎である

自然公園でもあるアルブフェラ湖をぐるりと遊覧できる小舟が湖畔の数箇所から出ている。一周約45 分で野鳥ウォッチングも楽しめる


 バレンシア一帯を原産地とする主の米品種はジャポニカ種。短粒種で円粒種という形状は日本の米とほぼ同じで、水分吸収が良く味わいがありふっくら炊けるのだが、決定的な違いは「粘り気」。同じ米にして「粘り気」が圧倒的に少ないという日本産とスペイン産での差は、米だけでなく人にも通じるのだと妙に納得する。

 国内に約300種ある米品種のうち、バレンシアのDOPとして原産地呼称認定を受けているのは3品種。前年度、収穫した米ではなく、統制委員会により手渡される純粋な品種のみが翌年の稲作に使用されているという。

 スペイン人の米の消費量は年間平均7キロらしいが、バレンシア人の場合、日曜日の恒例パエリアを含み、昼食を中心に週3回は軽く米料理を食べている。加えて、夕食も米料理が登場する我が家が平均消費量を上げているのは言うまでもない。

オレンジの木の薪でパエリアを炊くのもバレンシアならでは。薪の木の種類によってパエリアの味わいが変わるのが面白い

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Bomba、Albufera、J .Sendra とそれぞれ性質が異なり、作る料理、調理法、求める米の仕上がり、その時の状況や条件によって米を選ぶ必要があるのだという

今回、取材した米メーカーArroz Tartanaでは、水田見学やパエリア実習(10名以上のグループ対象)についても相談可能です。 なお、バレンシア米、この米を使ったグルテンフリービール、甘すぎずにさっぱり飲みやすい米リキュールはいずれも日本未上陸。輸入、ツアー参加にご興味のある方は下記のアドレスまでお問い合わせください。

オルカ・スペイン
www.orkaspain.com / orka@orkaspain.com



片岡 治子 / Haruko Kataoka

大阪府出身。1991年より渡西。スペイン全土を食べ歩きの後、スペイン家庭料理研究家として料理教室を主催する他、WEBや雑誌等のレシピ・コラムの執筆を手がける。スペイン国内で営業業務、某ワイナリーの販売業務を経て、バレンシアを拠点に日本市場に向けて食材・飲料の輸出業務を中心に行う『オルカ・スペイン ORTIZ&KATAOKA, S.L.』経営。一夫二男一女一匹と共にスペイン田舎生活現在進行中。

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