2019年01月

　体に良くて美味しい物が多すぎるというのは難儀な話である。食いしん坊の悲しいところで、今まで何の気なく食べていたのに、ある日突然、記憶を覆すように魅了され、回を重ねる毎にさらに美味しい物を探さずにはいられなくなる。そうなると、体重と財布の中身が反比例曲線を描いていく悪循環となる訳である。

　その1つが蜂蜜。日本にいる頃は“大事にちょっとずつ食べる高級嗜好品的イメージ”があり、加えて、どんな食べ方があるのかもよく分からず、トロリと垂れ落ちる琥珀色の液体を存分に味わった記憶はない。蜂蜜には幾つもの種類があって、香りや味わいだけでなく、それぞれの効果が異なるということを知ったのは、実のところ、スペインに来てからだった。

　 働き蜂が、数百もの花を渡りながら、花蜜を胃（蜜のう）に溜めて巣に持ち帰り、その蜜のうに蓄えた花蜜を、貯蔵担当の働き蜂に口移しで渡していく。ここからは貯蔵担当の働き蜂が35度という高温の巣の中で、自らの羽ばたきにより風を送り、さらに口でかき混ぜて水分を蒸発させる。働き蜂の唾液に含まれる酵素が加わって、花蜜のショ糖はブドウ糖と果糖に分解されて成熟し、ようやく蜂蜜ができるのだ。

　蜂蜜同様、蜂たちの贈り物であるローヤルゼリーはアミノ酸を含み非常に栄養価が高く、プロポリスは天然抗菌物質として、その優れた抗菌効果から古代エジプトではミイラを作る際に使用されていたという。

　蜂たちが膨大な作業をこなしながら、一生懸命に作った栄養素の塊のような副産物をまるごと掻っ攫っていくのだから、本当に申し訳ない限りである。せめてもの償いに、蜂蜜の残った瓶にも牛乳を入れてチンし、最後まで有難く頂いている。

　ちなみに、自然と蜂、巣箱があれば、あとは蜂たちが全てやってくれるのだから、スペインには自家製蜂蜜を作っているご近所さんというのは結構いて、毎回、蜂蜜の空き瓶を預けておく常連さんもいる。自然のまま凝固したトゥロンのような蜂蜜は、独特の口当りが食べ慣れると癖になってしまう。

　蜜蜂が好んで訪れる花は、日本ではレンゲ、アカシアが有名だが、世界4000種以上あると云われ、ここスペインではハーブと蜂蜜が密接に関係している。つまり、薬草として古くより人々の生活の中に取り込まれていたハーブそれぞれの花蜜より作られる蜂蜜は、蜂蜜そのものの効果だけでなく、それぞれのハーブの特性を持ち合わせているということになる。

　ローズマリーやタイム、ユーカリなど、聞き覚えのあるハーブ以外にも珍しいハーブ蜂蜜が沢山あり、淡い黄色から濃い茶色に色づくグラデーションは見ているだけでも楽しい。料理好きな貴方なら、お好みのハーブ蜂蜜を数種類使い分けるとなかなかオツなキッチンになるのではないだろうか。

● Miel de Romero / ローズマリー蜂蜜
スペインで最も一般的なハーブとも言えるローズマリーの蜂蜜だが、ローズマリーの品質により極上の蜂蜜となり得る。胡桃、アーモンド、果物やデザート最適。体内を活性化するうえ、リチウムの含有率が高く、物忘れやうつ病など精神疾患の緩和を促す。

● Miel de Tomillo / タイム蜂蜜
味わいがありタイム独特の強い香りが魅力的。カッテージチーズやフレッシュチーズにもよく合う。消化を促進し、乾いた咳や喘息の発作を和らげる効果がある。鎮静作用もあり、睡眠不足、便秘にも。

● Miel de Azahar / オレンジ蜂蜜
オレンジの花蜜から採れる蜂蜜。非常に芳香豊かでまろやかな味わい。就寝前にインフュージョンや牛乳などに混ぜると良い。お年寄り、お子様を問わずに、リラックス効果が期待できる。

● Miel de Espliego / ラベンダー蜂蜜
爽快感があり、アイスクリームに混ぜ込んだり、紅茶に少し混ぜてもエレガントな味わいを楽しめる。消化促進に加え、咳や特に気管支系の患いを伴う風邪にも効果が高い。皮膚の炎症を治めるため火傷の治療としての使用も可能。

● Miel de Brezo / エリカ蜂蜜
味わいが深く、秋の落ち葉や土、きのこを思わせる。僅かな苦味と塩味が感じられ、豚肉料理に非常に相性が良い。ミネラル分が多く、利尿効果、リウマチ緩和、整腸作用の他、貧血の予防にも効果がある。

● Miel de Eucaliptus / ユーカリ蜂蜜
ユーカリの香りと独特の微かな苦味がダイレクトに感じられる。咳を伴う風邪や喉や肺など気管支系の炎症にも非常に効果がある。