2014年02月
素朴な庶民のクリスマス菓子、ポルボロン
小麦粉とラードと砂糖を主材料とするポルボロン、マンテカード、マンチェゴなどは、16世紀ごろからイベリア半島の菓子の歴史に登場した。大晦日の「ウバス・デ・ラ・スエルテ(幸運の12粒のぶどう)」と同じく、備蓄していた食料を祭日のために活用するという発想から生まれた、庶民の菓子と言える。
ポルボロンは、アンダルシア地方のエステパ、アンデケーラ、コルドバなど、小麦と豚の油脂だけが豊富にある貧しい地域で生まれ、それがラ・マンチャ地方へともたらされて、その地の産物であるワインを加えてマンチェゴという菓子に変化した。また、ポルボロンは小麦粉の分量が多いので、その粉を焦がすことで独特の風味を加え、クリスマスの菓子として定着してきたのに対して、卵を加えてしっとりと仕上げたマンテカードは、年間をとおして朝食などに登場する。これらの素朴で質素な菓子類は、トゥロンやマサパンが高価なアーモンドという素材ゆえに贅沢な王侯貴族の菓子として始まったのに対して、スペインの庶民から生まれた菓子の流れということになる。
ちなみに、この機会にぜひとも訂正しておきたい間違った風聞がひとつ。日本でいつのころからか、「ポルボロンを口に入れて3回ポルボロンと言うと幸せになる」という説が飛び交うようになった。今回のガイド役のアナをはじめ、製菓にかかわるプロの人たちに聞いてみたが、「スペイン人は誰も、そんな説を聞いたことがない」というのが共通の意見だ。
どうも、冗談好きのスペイン人にからかわれた日本人がいて、その人が冗談を真に受けて広めてしまったのではないか、と彼らは言う。第一、スペイン人がどのようにしてポルボロンを食べるかを知っていたら、こんな説は生まれないだろう。スペインでは、紙包みのポルボロンを手のなかでぎゅっと握りしめて、粉が飛び散らないように固めてから紙を開いて食べるのだ。ということで、本誌の読者の方々には今後率先して、この間違った情報を払しょくしていただきたいものと願っている。
キャンディのような紙包みが特徴的なポルボロン。
渡辺 万里 / Mari Watanabe
大学時代にスペインと出会い、 その後スペインで食文化の研究に取り組む。1989年、東京に『スペイン料理文化アカデミー』を開設しスペイン料理、スペインワインなどを指導すると同時に、テレビ出演、講演、 雑誌への執筆などを通して、スペイン食文化を日本に紹介してきた。「エル・ブジ」のフェランを筆頭に、スペインのトップクラスのシェフたちとのつきあいも長い。著書は『エル・ブジ究極のレシピ集』(日本文芸社)、『修道院のうずら料理』(現代書館)『スペインの竈から・改訂版』(現代書館)など。
<スペイン料理文化アカデミー>
スペイン料理クラス/スペインワインを楽しむ会/フラメンコ・ギタークラスなど開催
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