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acueducto 22 特集「70歳からのサンティアゴ巡礼」

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El Camino de Santiago 70歳からのサンティアゴ巡礼


杉本嘉孝

70歳からのサンティアゴ巡礼

 

 

巡礼手帳の発給

 

 今考えてみると、かなり気負っていた気がします。パスポートで本人確認が済むと、巡礼手帳(クレデンシアル)を発行してもらい最初のスタンプ(場所と日付)が押されます。これがないとこれから先、巡礼宿(アルベルゲ)に宿泊できません。いわば巡礼中のパスポート。2つ質問されます。

「あなたは何故サンティアゴ巡礼をするのですか?」

2つ目は「徒歩で、それとも自転車で?」手段は「徒歩で」と答えましたが何故?という理由を尋ねられ、こう答えた。

「今年8月私は古稀を迎えます。この巡礼行を人生の1つの節目としたい。道中、大自然に囲まれた中で静寂にしてかつ霊感を受けるであろうこのカミーノ(巡礼路)を歩き自己の内面を見つめ自分自身と対話をする機会としたいからです」

「あぁなるほど、エスピリチュアルね」

と言葉が返ってきて発行手続は終了。今思うと何とキザなセリフを並べたてていたことか。最初から気負いすぎ。70歳になるのはその通りだが、霊感ウンヌンは苦しいこじつけのようにも聞こえる。カトリック信者でない私が三大聖地の1つであるサンティアゴ詣を体験したいと必死にアピールしたのを思い出す。これが我が「初めての巡礼」の第1日目。2007年5月。場所はアストルガ(レオン県)の巡礼事務所。毎年春になると巡礼に出かけるようになった。

 

きっかけ

 

 サンティアゴ巡礼を思いついたのは前年、某旅行会社のスペイン・ツアーに参加、観光地巡りをする途中訪れた1つがサンティアゴ・デ・コンポステーラだったからである。ここで1人の巡礼者に出会った。初老のスペイン人。彼は長い巡礼路を歩き続けやっとここサンティアゴ大聖堂に着いたばかりだった。満足感と達成感に満ちたいい表情をしていた。彼に尋ねた。

「私もカミーノを歩けますかね?」

「そりゃ大丈夫。道中困った事に出会えばヤコブ様(スペイン語でサンティアゴ)がお助け下さるから」

この一言は効いた。まさに背中をポンと押してくれたのだ。決心がついた。よし、来年はきっと巡礼に出かけよう、と。ツアーから帰国後サンティアゴ巡礼に関する本や案内書に目を通した。何冊も出版されていて初心者には大助かりだ。コースは1番人気があるフランス道を選び、時期は5月から1ヶ月の予定とした。アストルガをスタート地点としたのは、ここからだと目標のサンティアゴまで約250km。「無理せず」をモットーに1日平均10km前後のペースなら辿り着けるだろうと計画を立てた。

 案内書を読み進むにつれ段々と概要も自分なりにつかめてきた。装備には特に気を配り、まず履物は登山靴。重さ10キロ~12キロのザックを背負って毎日歩き続けるわけだから足元が最優先。平坦な道ばかりではない。上り下りのきつい坂道もあれば、ドロンコ道もあるという。ザックの中身は寝袋、マット、レインコート上下、サンダル、洗面用具、カメラ、バッテリー充電器、湯沸器、ヘッドライト、胃腸薬等々。体験話では「足にマメ」「靴ずれ」「膝の痛み」で苦しむ巡礼の話が必ず出ていて、生々しい写真もあった。手当て中の針と糸まではっきり写っている。これは他人事ではない。ましてや高齢者夫婦が「初めての」巡礼の旅に出ようというのだ。事前の足ならしを心がけ散歩を日課とした。道中、峠をいくつか通過するので高低差に備えて、京都の北西部に位置する愛宕山(あたござん・924m)へ4回、地元のポンポン山(678.9m)へ5回出かけた。できる限り念入りな準備を心がけた。



杉本 嘉孝 / Yoshitaka Sugimoto

大阪府出身。1937年生まれ。2007年初めて巡礼路を歩き、以降2015年で8回目の巡礼となる。

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