2019年04月
シェリー酒の飲み方は多様で、食前から食後までをシェリー酒だけで楽しむことができます。シェリー酒は原料が白葡萄100%の強化ワインですが、糖分が0g/1ℓの極辛口から600g/1ℓの極甘口までの幅があり、このため食前酒、食中酒、食後酒としてのバリエーションも豊富なのです。
食前酒
辛口のドライ・シェリーは白米のようなもの
食前には食欲増進や胃を含めた内臓の活性という意味でも辛口が好まれます。辛口シェリー酒の代表格であるフィノやマンサニージャには醸造過程に独特の酵母の膜が液面に浮いてきますが、これは言うなれば葡萄果汁に含まれていた油脂成分が分離して浮いてきたようなもの。しかも普通の白ワインとは異なり、通常で5年以上という長い期間、酵母と接しているので酵母独特の香りが付与されるだけでなく、シェリー酒中の糖分が全て酵母によって喰いつくされ、本当の辛口ワインに仕上がるだけでなく、油脂成分を含まないサッパリとした味わいになります。白ワインにはないこの効果がハモン(生ハム)やアヒージョ、フリットなどの油脂を旨味とするものとの相性が良く、葡萄品種自体の特性が非常に弱いことで、どんな料理とも喧嘩しないという特性があります。これは日本人にとってのお米に置き換えるならドライ・シェリーは玄米ではなく白米のようなものであり、そこに何かを乗せたりかけたりすることで食欲増進になるのです。しかもドライ・シェリーは普通のワインが不得意とするヴィネガーとの相性も良いので、結果、バルのタパスでドライ・シェリーに合わないものはないに等しいと言えるでしょう。
食中酒
アモンティリャードはスープとの相性抜群
食中の定義はさておき、スペインにはグイサードやエストゥファード、カルドなどの煮込み系のほか、ヴィネガーを使ったアドボ(マリネ料理)、またカルボンのような炭焼などがあり、こうした焼いたり煮込まれたりした料理には独特のコクや風味があります。日本料理でしたらそこに醤油や味噌、味醂などを使いますが、スペイン料理はトマトや骨付き肉、またカジョスなど内臓をじっくり煮ることで旨味やトロミを引き出します。ハモンなどのエンブティード(加工肉)もそうですが、スペインの美味しいものに共通するのは、アミノ酸や熟成によって生まれる味わいと風味ですね。実はそれと同じ成分が沢山詰まったのがアモンティリャードやオロロソ、そしてパロ・コルタドなどのシェリー酒なのです。もちろんそれらの料理に赤ワインを合わせてもいいのですが、赤ワインは言うなれば料理に果物を添えたようなもの。琥珀色のシェリー酒たちは言うなれば葡萄で造 った発酵調味料をつけたりかけたりする感覚なのです。ですからやはり琥珀色の熟成系シェリー酒も、合わない主菜はないのでは、と思うほど何にでも合います。さらに普通のワインとは実は合わせ辛いソパ(スープ)などの汁気の多いものでも、長期熟成によって乾物化(水気減少効果)したアモンティリャードならビックリするほど相性が良く、今でも各国の王室のスープ料理には欠かせない組み合わせになっています。
食後酒
デザート代わりの甘口シェリー
食後にはポストレ(デザート)やケソ(チーズ)を食べながらカフェやブランデー、アニスやギンダス(チェリー酒)を楽しめますが、どれも実は活性化し過ぎた胃を沈めて消化を助ける効果を期待してのこと。そんな食後に出てくる様々な食べ物と飲み物に合いつつ、全てを肩代わり出来る存在が甘口シェリー酒なのです。クリームやペドロ・ヒメネス、場所によってはモスカテルなどのタイプのシェリー酒をメニューの中に見つけることができるでしょう。
中瀬 航也 / Kohya Nakase
1971年生まれ。シェリー酒専門 家。公認ヴェネ ンシアドール。シェリー酒名誉男爵。公認コルタード・デ・ハモン。銀座しぇりークラブ店長を10年勤め、シェリー酒輸入商社営業を経て、バル業態プロデュース「オジャ」を広めた。現在、五反田にBar Sherry Museumを営業。全国でセミナー、イベントを開催。著書は『シェリー酒』(PHP)、『Sherry』(志學社)。ブログ ameblo.jp/catador
<Bar Sherry Museum>
常時150種類以上のシェリーと約40種類のシェリーブランデー、約10種類のベルモットなど9割がスペイン産のお酒を扱うバー。料理はスペイン料理をベースに和洋中をミックスした新南蛮料理(和華蘭料理)を提供。10席。喫煙。カード可。予約/貸切可。
〒141-0031 東京都品川区西五反田1-4-8-2F奥
TEL : 03-3493-4720 17:00~24:00(日・祝定休)
sherry-museum.jimdofree.com