特集

ESPECIAL

acueducto 39 特集「スペイン在住の日本人6人。スペインで為せば成る!」

PDF記事

PDF掲載誌

尾崎剛士(サッカーコーチ / バレンシア在住)


サッカー指導者の99%はスペイン人。
だから、私のようなアジア人指導者は
かなり目立っていると思う。

スペインへ行くことになったきっかけはなんですか?

 大学生時代にはプロサッカー選手を目指していましたが、それがダメで「クラブを持ちたい」と思ったのが出発点。当時は日本国内で作ろうと思い、その資金を貯めるため大学院を卒業後IT会社で4年半勤務しました。仕事の傍らで情報収集のためにいろいろな指導者や関係者に会いに行き、その過程でスペイン在住の方々との出会いが多くあったことから、スペイン行きを決意。2011年10月、28歳の時に学生ビザで入国、地中海の街バレンシアを生活の拠点に決めました。

仕事をどのように実現させましたか?

 まずは、バレンシアに着いて3日目から地元クラブでアシスタントコーチとして活動を始めました。その1年後に指導者学校に入学して2年間通い、サッカー指導者ライセンスIIまで取得しました。この間も所属クラブでの試合観戦やアシスタントコーチとしての経験を積みながら勉強させていただき、実際に自分が初めて第一監督としてチームを任されたのはスペインに来て3年目で、契約先はバレンシアの街クラブのジュニアチーム。以来、2019年現在まで3つのクラブを渡り歩き、コーチを続けています。

 学生ビザから個人事業主ビザに切り替える時は、その変換の情報がなく非常に苦労しました。失業率の高いスペインでは外国人が就労ビザを取ろうとすると「雇用を奪う」と思われがちで、たとえばスペイン人の雇用を確保した上で申請しないと通りにくいなどの暗黙の条件があり、これらの書類の準備、切替の条件を揃えるために弁護士を頼らざるを得ませんでした。1年かけて個人事業主ビザを取得して現地で出会ったスペイン人のビジネスパートナーとバレンシアで起業し、現在まで二人三脚で仕事を続けています。

スペイン・バレンシアにて自チーム(トレンテ CFのU-19)の指導をしている尾崎さん。

仕事のお客さんは、どんな人たちですか?

スペイン人:50% 日本人:50%
男性:50% 女性:50%
主な年齢層:20〜50代

 バレンシアのジュニアチームのコーチのほか、貿易、留学・遠征コーディネーター、日本クラブのアドバイザーも兼業しています。毎年夏や年末年始は日本に帰国して、高校生へのサッカー指導や全国大会まで出場したらそのチームの監督、指導者向け講習会、さらに現在はバレンシアのレバンテUDとも契約しているのでそのプロモーション活動も行なっています。サッカー指導については、スペインの子供たちと日本の子供たちを教える時、接し方は大きく異なります。スペインでは、私がスペイン語で説明したことに対してさらに質問を重ねてくるので、どんどん喋らなければいけない。くだらないことでもグイグイきます。距離感がとても近く、彼らとの関係は一緒に物を作っていくひとつの家族のようなもの。私自身も指導中に、家族なんだから、何かあったらお互いにすぐに助け合おう、気を使おう、という言い方をよくします。日本の子供たちは教えられ慣れているので、学びに対して受け身の態度。だから別の意味で、私が喋り続けなければいけません。彼らとの関係は「指導者と生徒」という立場ではっきり線引きされているように感じます。

スペインサッカーカンファレンスin横浜での講演の様子。

バケーションはどうしていますか?

 スペインの休暇のたびに日本に帰国して仕事をし、スペインに戻ったらリーグ戦がまた始まる……という日々なので、まとまった休みはほとんど取っていません。ただ、自分の自由に時間が使えますし、拠点にしているバレンシアは大きな公園やおしゃれな場所も多く子育てもしやすい環境なので、楽しいことは日常的に経験できていると思います。

スペイン暮らしを振り返って、性格や考え方に変化はありますか?

 日本にいた時は競争していた記憶があります。何かに迫られているような圧力を感じていましたが、スペインに来てそれはなくなりました。いろんな人種の方がいるので、僕らは僕ら、彼らは彼らでいいんだ、あるいはできないことはできないから、次に行こう、と思えるだけでかなり気は楽になりました。

レバンテUDクリニック大阪での指導の様子。

スペインで幸せな瞬間

 家族との時間を十分に取れるところ。ここは子供と高齢者をとても優遇してくれる国です。電車内でタトゥーのたくさん入ったお兄さんがおじいちゃんに席を譲るのが日常風景。外国人の子供に対しても優しいです。見ず知らずの他人でも、赤ちゃんを見かけたら話しかけてくれたりあやしてくれたりします。いい意味で他人との垣根がなく、街や地域全体で子育てをしていると感じます。

VOLVER

PAGE TOP