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acueducto 12 特集「西欧最古の都市、カディス」

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カディス食べ歩き・飲み歩き


渡辺万里

<エル・ファロ>

 海岸線に面した太い通りはそのままカディスの町の先端部をぐるりと取り囲んでいるが、そこから少し路地を入ったところに、誰に聞いても町一番と評判の高いレストラン「エル・ファロ」がある。

 お父さんの跡を継いで店を切り盛りしているオーナーのマイテは、いままさに脂の乗り切った女性実業家。大勢のスタッフがきびきびと 動いているレストランでも、彼女なしには仕事が進まない様子がよく分かる。

「トルティータ・デ・カマロンはもう食べた? これは外せないでしょ。でもうちの人気料理、メルルサのパステルも食べてほしい。うちのアルメハスもよそにはない味ね。あとは魚のアルボンディガス。これで 結構お腹が一杯になると思うわよ。」

 注文した品以外に、ワインのつき出しとしてパタタ・アリニャーの大盛りの皿が登場。一通り食べ終わるころには、カディスには揚げ物以外にも美味しいものがあること、但しどれもボリュームたっぷりでなくては美味しいとされていないことをひしひしと実感していたのだった。 ここで断っておかなくてはいけないが、アンダルシアの料理についてカタカナで書くのはなかなか難しい。現地の発音では語尾のSはもちろんのこと、Dも飲み込んでしまうので、たとえば pescaditos fritos はペスカイト・フリートになってしまう。

 Patatas aliñadas は、茹でたジャガイモをドレッシングでからめて味付けしたもの。 Pastel de merluza は、白身魚を裏ごしして卵などとあわせ、ムースとして固めたもので、カディスだけの料理というわけではないが海辺の町では人気のある料理。 Almejas con gambas y setas は、海老とキノコをソースに加えて煮込んだアサリで、なるほど少し凝った味わいの一品。 Albondigas de pescado は白身の魚をすりつぶして作ったボールが柔らかなトマト味で煮込まれていて、ミートボールとはまた違うやさしい味だ。

 そして、マイテが「これは絶対食べなくては」と言った Tortita de camarones は、カディスの名物料理で、小エビを小麦粉でまとめて揚げたもの。カマロンというのは生の時は透明、加熱すると赤くなる小さなエビの名前で、カディス出身のフラメンコの歌い手カマロン・デ・ラ・イスラは、小さくて赤毛であるところからこの愛称がつけられ芸名になったという。カリッと揚げたところは、日本のかき揚げに似ている。白状すると私は、マドリードのアンダルシア系のバルでこの料理を出された限りでは、あまり感激したことがなかった。エビの鮮度、オリーブ油の質、衣の分厚さ、揚げ方など、簡単なようでいて難しく、どこでも美味しいというわけにはいかない。しかし本場カディスの一流レストラ ンのそれは、新鮮な油の香り、薄い衣の適度な食感、香ばしい味で、シェリーでもビールでも、どんどん飲みたくなるような美味しさだった。

 

歴史を感じさせる店内

エビときのこ入りアサリ

パステル・デ・メルルーサ



渡辺 万里 / Mari Watanabe

大学時代にスペインと出会い、 その後スペインで食文化の研究に取り組む。1989年、東京に『スペイン料理文化アカデミー』を開設しスペイン料理、スペインワインなどを指導すると同時に、テレビ出演、講演、 雑誌への執筆などを通して、スペイン食文化を日本に紹介してきた。「エル・ブジ」のフェランを筆頭に、スペインのトップクラスのシェフたちとのつきあいも長い。著書は『エル・ブジ究極のレシピ集』(日本文芸社)、『修道院のうずら料理』(現代書館)『スペインの竈から・改訂版』(現代書館)など。


<スペイン料理文化アカデミー>
スペイン料理クラス/スペインワインを楽しむ会/フラメンコ・ギタークラスなど開催
〒171-0031 東京都豊島区目白4-23-2
TEL: 03-3953-8414 HP: www.academia-spain.com

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