2013年02月
<サン・アントニオ>
カディスでの最後の食事は、この町が大好きで毎年訪れている友人のお勧め店、サン・アントニオ広場に面したレストラン「サン・アントニオ」に決めた。こじんまりして居心地のいい店内、長年働いている風情のカマレロたち。奥のテーブルには、明らかに毎日ここで食事をし ている老紳士がいたり、神父様とその友人たちがにぎやかにテーブルを囲んでいたりと、美味しい料理の出てくる予感がする。
友人が勧めてくれたのは、 sopa de tomate トマトスープと fideos con caballaサバ入りのパスタ。どちらもスープの類だが味見したいので両方注文すると、大きな土鍋に並々と入ったスープと、スープ壺いっぱいのパスタが出てきた。
フィデオ・コン・カバジャ
ソパ・デ・トマテ
レッチェ・フリータ
トマトスープと言ってもエストレマドゥーラ風で、パンがたっぷり入った濃厚なもの。上には卵が割りいれてあり、これだけで食事にしてもいいようなボリュームだが、隣りの地方から伝わってきて海辺の町で定着した、滋養あふれる一皿がお腹にやさしい。そしてサバを具として入れたマカロニも漁師町らしい素朴な味わいで、レストランの料理というよりは田舎のおばさんの料理という雰囲気。なんだか下宿の夕食でも食べているような気分になってくる。
メインディッシュは飛ばしてデザートは leche frita レッチェ・フリータを注文する。甘くした牛乳を小麦粉で固めてからフライにしたこのデザート、スペイン北部でもよく食べるけれど、ぷりっと固めた食感、かりっと揚げた衣、たっぷりかけたシナモンの風味はどんな料理のあとにも相性のいい昔ながらのデザートだ。店のお勧め料理をどれも見事にクリアした私に、メトレが食後のお茶とリキュールをサービスしてくれて、旅の最後の食事もめでたく終わったのだった。
さて、私のカディス食べ歩きの旅。読者諸氏は、いったい何日間の旅だと想像なさるだろうか? 実はたった2泊3日の旅だ。その間、ここに記したものだけでなく、カディス名物の菓子 Pan de Cádiz(クリスマス菓子のマサパンの一種)も食べた。 Empanada de atún(マグロ入りパイ) も食べた。オリーブ油を塗って食べるアンダルシア風のトーストの朝食も食べた。そして、どれにも満足した。決して「揚げ物だけのカディス」ではない。
だから、自信を持ってお勧めしたい。カディスへの食べ歩きの旅を。
¡Vamos a Cádiz!
渡辺 万里 / Mari Watanabe
大学時代にスペインと出会い、 その後スペインで食文化の研究に取り組む。1989年、東京に『スペイン料理文化アカデミー』を開設しスペイン料理、スペインワインなどを指導すると同時に、テレビ出演、講演、 雑誌への執筆などを通して、スペイン食文化を日本に紹介してきた。「エル・ブジ」のフェランを筆頭に、スペインのトップクラスのシェフたちとのつきあいも長い。著書は『エル・ブジ究極のレシピ集』(日本文芸社)、『修道院のうずら料理』(現代書館)『スペインの竈から・改訂版』(現代書館)など。
<スペイン料理文化アカデミー>
スペイン料理クラス/スペインワインを楽しむ会/フラメンコ・ギタークラスなど開催
〒171-0031 東京都豊島区目白4-23-2
TEL: 03-3953-8414 HP: www.academia-spain.com