スペインの大学生たちの就職難

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 スペイン国内の深刻な失業問題は皆さんも聞いたことがあると思います。ここ数年にかけてはやや低下していますが、それでもまだギリシャに次ぐ欧州第2位の失業率の高さ、財政危機が懸念されている国です。特に若者(15〜24歳)の失業率は50%を超え、高学歴であっても定職に就けないことが当たり前になっていて、職を求めてスペインから海外に去る人材の頭脳流出も問題視されています。大学を出ても安定した職に就けないスペインの若者たちの困難な状況について、昨日付の『エル・パイス』紙が詳しく報じていましたので、確認してみましょう。

El 30% de los universitarios no encuentra trabajo cuatro años después de graduarse

España es uno de los países de la UE donde más titulados superiores tienen empleos poco cualificados

 

 スペインでは「大卒」は将来の安定した職を保証するものではなくなっています。2014年に大学を卒業した若者のうち、27.7%が4年後の2018年にも定職に就けていないことが科学・イノベーション・大学省(Ministerio ciencia innovación universidades)の統計で明らかになっています。スペインの高等教育の水準は、欧州の他国に比べて決して低い訳ではありません。それにもかかわらず高等教育を受けた若者たちがその才能に見合った仕事に就けない状況が続いているのです。さらに2017年のFuncación CYDの調査では、質の低い(=安賃金の)仕事に就いている大卒の若者は、欧州平均では23.2%なのに対して、スペインでは37.1%にものぼります。

 経済協力開発機構の顧問フランシスコ・ミチャヴィラ氏は若者の就労状況の背景には「とてもねじれた」スペインの労働市場があると指摘しています。「15年前の1冊の報告書(The Flexible Professional in the Knowledge Society)がすでに指摘していたのですが、大企業は足並みを揃える一方で、中小企業は自社発展のための研究・革新を行えるだけのキャパシティがなく、この結果として大学教育レベルに適切でない質の仕事をせざるを得なくなっています。馬力のある企業に就職できる運の良い人もいますが、それ以外の人は何でもこなさなくてはならない状況になっています」

 具体的などの学部が就職難に陥っているのでしょうか。2013-2014年度に大学卒業後してから4年後の2018年現在、社会保険に加入している若者たちからの統計です。文系の分野に不利な数字が出ています。()内が社会保険加入者のうちの就職率です。下にいくにつれて就職状況が良くなっている統計です。

造形芸術(50.5%)
外国語学(50.8%)
現代応用言語学(54.2%)
芸術史(55.2%)
歴史(55.6%)
法学(55.8%)
哲学(56.1%)
通訳・翻訳(56.5%)
人文学(58.3%)
犯罪学(59.1%)

 逆に最も就職状況の良い分野は:

医学(91%)
光学・眼科学(90.2%)
足病学(88.9%)
電気工学(85%)
情報科学(84.6%)
言語医学(84.5%)
機械工学(84.1%)
薬学(84.1%)
自動車産業(83.8%)
農学(83.7%)

 大卒での就職難は、卒業後の進路にも影響があります。いわゆる「就職浪人」を避けるために修士に進学する学生が顕著になってきています。そして分野別の就職率の格差は、入学時に学生たちがどの学部を選択するかにも影響してきます。しかし専門家は今、就職率が高いという理由で分野を選択することは早計であるとも指摘しています。「落ち着いて研究しなくてはなりません。この先15年間でどの分野が必要とされていくかは不透明です。特に大学は、単に将来の労働者を養成する場ではなく、批判的な意識を備えた市民を養成する場でもあるのです。もし雇用にばかり意識が向いていれば、教育レベルはガンと落ちてしまいます」(大学連盟の書記長ホセ・マヌエル・ピンガロン氏)、「唾棄すべき一連のテーマがあります。雇用率の良いエンジニアになるために、学生は数学と物理で優秀な成績を取らなければならないという風潮はなくすべきです。そういったことをすれば良いのではありません。中等教育からこの普及活動はしていかなくてはなりません」(ミチャヴィラ氏)

 2008年から2018年の10年間で、スペインでは、科学技術の課程において74万人もの学生を失いました。「企業は相変わらず優秀な卒業生を取りたがり、それが完全に嵐となっています。学生たちが企業に求められるほど、彼らは適職・天職を諦めてしまうことになります」(バレンシア工科大学学長フランシスコ・モラ氏)。そこでこの大学では夏休みのスクールを設け、建築、ロボット、物理のそれぞれの研究室に3歳から14歳までの子供たちを招いています。そこで科学技術に純粋に興味をもってもらおうという狙いです。

 就職をめぐる男女間の格差も浮き彫りになっています。2017-2018年度の大学の学部の課程に在籍しているスペイン人学生の男女比率を調査したところ、半数以上の55.1%が女子学生であることがわかりました。同年度では29万人以上の学生が卒業していますが、57.9%が女子学生でした。単に人数において男子学生を上回るだけではなく、成績においても、科学をのぞく全分野(社会科学、工学、造形芸術、人文学、健康科学)において上回っていることがわかりました。その一方で、卒業して4年後の就職状況については、男性よりも雇用に恵まれていないことがわかりました(男性:58.9%、女性:46%)。そして給料も下回っていました(男性:27,000ユーロ、女性:24,445ユーロ)。

「最も雇用率の高い課程はSTEM(科学、技術、工学、数学)です。そしてこれらの課程の女子学生は男子よりも就職を得られていません。この亀裂は、雇用後の給料の格差に繋がっていきます。男子学生たちはより仕事があり、より給料の高い環境に恵まれています。だからこそ小中学校の教育課程の時点でこのステレオタイプを変化させることがとても重要になっているのです。環境を女性優位にすることも男性優位にすることもしてはいけないのです」(ジャウメ1世大学学長エヴァ・アルコン氏)

 学生を雇う側の人事についても分析がされています。アルコン氏は言います。「文化的認識は一夜で変わるものではありません。社会では前よりずっと意識化されていることなのですが、それが直ちに解決に繋がるということを意味するわけではありません」。情報科学の分野が情報工学と呼ばれるようになったとき、スペイン全体で女子学生のこの分野への入学が減ってしまいました。「『工学』『エンジニア』という単語が恐怖を起こしているのです」と、フランシスコ・モラ氏。現在、女子学生は情報工学よりもデザイン、創造的技術の分野に流動しているそうです。

 こうした中で、バスク大学出身のバジュエルカ氏は、大学ではなくて企業がこのジェンダーによる雇用の格差に歯止めをかけるべきだと主張します。「亀裂によって、女性たちの方がずっと、パートタイム雇用契約をせざるを得なくなっています。男性たちにも育児休暇を取らせる新しい法律によって、こうした状況もまた調整されていくことになるでしょう。けれども企業はとても重要な役割を背負っているのです」。バスク地方では、男女間の雇用格差はそこまで深刻ではないといいます。そして2014年-2015年度に卒業した学生たちのうち83%が就職しているとのことです。「複数の異なる科学的調査によって明らかになったのは、もし男性のあなたが女性の名前で同じ内容の履歴書を送ると、採用の可能性が低くなるということです。性別によるバイアスははっきりしています」と同氏は批判しています。

 楽観的には捉えらない現代スペインの学生たちを取り巻く環境。厳しい就職率を背景に、それでもより恵まれた雇用を見つけようと実学ばかりが重宝されていく風潮と、未だ根強い男女間の雇用格差が、学生たちの将来の選択肢を狭めることになります。スペインの若者は働いていなくても幸せそう〜という言葉もたまに聞きますが、大学の教育レベルが他の欧州とも変わらないことを考慮すると内情は深刻です。

 

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