日本人闘牛士「日出づる国の子」下山敦弘氏
2019年08月23日
今後の存続の賛否両論がありますが、今日はスペインの闘牛士について、それも日本人で、現地で初めて闘牛士を志した方をご紹介いたします。闘牛士という職業はスペイン人の専売特許ではなく、外国人もいます。今なお、数少ないですが闘牛学校にはプロデビューを志すアジア人も在籍しています。
● 下山敦弘
「日出づる国の子 El Niño del Sol Naciente)」の字をもつ下山敦弘氏は、日本人闘牛士として現地、特にセビーリャでよく知られています。事実、acueducto 編集部スタッフも、昔ニーム(フランス)に行った時に「『日出づるの国の子』を知っているかい」と現地の元闘牛士の人に尋ねられたことがありました。下山氏は、元々は東京でダンサー、兼、体操選手をされていた方ですが、ブラスコ・イバニェスの有名な闘牛作品《血と砂》の映画を観たのをきっかけに闘牛士を志すようになりました。まずは闘牛の歴史や術について日本国内で資料を読んで勉強し、それから本場セビーリャの地に足を踏み入れました。
¿Qué fue del torero japonés El Niño del Sol Naciente?
Llegó a Sevilla a primeros de los 90 y sufrió en 1995 una grave cogida que le dejó paralizado la parte izquierda de su cuerpo
闘牛士としてデビューしたのは1995年。アルカラ・デ・グアダイラ闘牛場にて。日本人が闘牛士デビューしたことは当時でも大きな話題となりました。Novillero sin picador(見習い闘牛士)として実績をあげ、今後の活躍も期待されていた新人だったそうです。しかし夢はかなく、あるいはこの文化には常につきものの「命の危険」によって、下山氏は同1995年の夏、引退を余儀なくされました。8月16日にアビラのペドロ・ベルナルドの闘牛場で、「ベルゴンソーソ」と命名された若牛の角の一撃を受け、左半身麻痺という大怪我を負いました。その当時のショッキングなニュースについては、闘牛ルポで著名な作家、佐伯泰英さんの記事が以下のサイトに掲載されています(話が逸れますが、リンク先のフラメンコダンサー、小林伴子さんは『acueducto』vol.36の特集でも文章をお寄せいただいている、日本フラメンコ協会の副会長の方です)。
https://www.la-danza.net/amigo/backnumber-vol03-3.html
ところで下山氏は、現役スペイン闘牛士の最大のスター、ホセ・トマス José Tomas にも大きな感銘を受けています(編集部スタッフはホセ・トマスの闘牛を観たことがないので、彼が現役の内に観たいと思っています)。ホセ・トマスはスペインでは「サムライ」と形容されています。彼は1995年、つまり下山氏がデビューと引退したのと同年に正闘牛士(マタドール)に昇格しています。そもそもホセ・トマスが「サムライ」と謳われるようになったのは偶然ではなく、この闘牛士自身が積極的に三島由紀夫などの文学作品を読み込み、日本の武士道精神を研究しています。
ホセ・トマスを発掘・育成したのはアントニオ・コルバチョという人ですが、コルバチョ氏は、大怪我を負った後の下山氏に出会い、復帰の試みを手助けしました。というのも1995年夏の大怪我で病院に運ばれた時も、下山氏はプロ闘牛士になる夢を切望し続けていました。そして、コルバチョ氏のはからいで舞台が用意され、車椅子に乗った状態ではあっても、実際に彼は若牛を前に闘牛したそうです。
その下山氏は、現在もセビーリャに在住しているとお聞きしています。