休息あるいは仕事からの解放のためのスペイン語

スペイン語

 8月になりました。8月のスペインと言ったらやっぱりバカンス(大型連休)の季節。毎年バカンスが近づいてきたな〜という頃に働いているスペイン人たちはうずうず、そわそわし始めます。だって早く仕事を終えて休暇を満喫したいもの。ああ早く仕事が終わらないかな〜。もうすぐ休みだ!! ビーチが、旅行が待っている!! 今いくよ!! くらいの勢いで思考回路がバカンスに切り替わります。そんなバカンス愛の強い国だからこそ、休暇や仕事からの解放をあらわす、さまざまな表現が生まれました。これらを使いこなせるようになったらスペイン人との距離感も一気に縮むカモ!?(参照元:verne.elpais.com)

Del “moscoso” al “Rodríguez”: historia de las palabras que usamos para no trabajar

El verano y las vacaciones transforman nuestro lenguaje Sin entrar en cuántos derechos laborales hemos perdido o no hemos alcanzado aún, una mirada a las palabras para nombrar en español el descanso del trabajo y el disfrute de días no laborables nos confirma que hemos cambiado mucho como sociedad.

■ 天上的な休息

 仕事をしないと言うときは “No trabajo”が簡単でシンプルですが、動詞 “holgar”でも代用できます。 “Huelgo los sábados”で「私は土曜日は働きません」という意味になります。ちなみにスペインではよく起こるストライキは “huelga”と言いますが、語源は同じで、中世で使われていた古スペイン語の動詞 “folgar”から派生しています。仕事を手放して休息する、という意味で、傍系の”folgado”は「休息をとった」、”folganza”は「休息」です。ただし中世のテクストでは”folganza”は単なる休息ではなく、苦しみ喘いでいる生の中で、神から与えられたものとしての「休息」の意味で使われることが一般的でした。特に農業や土木業などの厳しい肉体労働と、それらから解放された全く別の生(休息という褒美)とを結びつける言葉でした。つまり休息は昔は天上的なものとして考えられていたわけです。だからもしあえて”folganza terrenal”(地上の休息)という言葉を使ったときは、世俗的な、あまりありがたみのない休息を匂わせていました。

 

■ 「勤勉」と「気晴らし」のジレンマ

 ところで皆さま、「たくさん勉強したい」と「たくさん怠けたい」という欲望は両立すると思いませんか!? つまり、いろんな教養や知識を吸収して自らを向上させたい……と願う一方で、気晴らししたい……労働/勉強したくない……と逃げたくなることです。昔のスペイン人もこのジレンマを、勤勉と気晴らしの両立不可能性をよ〜く理解していました。だから13世紀のテキスト『カリーラとディムナ』で上述の動詞”folgar”を用いてこんな言葉が残されています。

Et una de las locuras et de las sandeces deste mundo es querer haber amigos sin lealtad (…) et querer ser sabio et estar folgando et non estudiando” (Calila e Dimna).
「この世界における狂気のひとつと、愚かさのひとつ。それは不誠実な友人たちを欲し(中略)学識豊かな人間になりたいと思うと同時に、勉強をせずに休みたいと思うことだ

 労せずして才を得たい……う〜ん多くの人類が見た夢?

 

■ 「フィエスタ」と「フェリア」の違い

“vacación”ともうひとつ、スペインにおける気晴らしや休息の代名詞といえるのが、”fiesta”。お祭り大国スペインではフィエスタと冠した行事やパーティーは溢れるほどありますね。さて、今もこの国で使われているお祭りをあらわす”fiesta”(ラテン語の”festa”)と、主に闘牛やフラメンコのイベントで使われる”feria”(ラテン語の”feria”)は、どちらも同じラテン語の”festus”(祝日の意)から派生しています。けれども古カスティーリャ語でこの2つの言葉が使用されていくうちに、それぞれ別々のニュアンスを帯びるようになりました。まず「フィエスタ」と言ったときは、宗教的な祭日の意味で使われていました。そして「フェリア」は宗教的ではない祭日、純粋に青空の下でお祭りを楽しみたい時に使われる言葉となりました。今日では「フィエスタ」が絶対に宗教的な祭日を指すという決まりはありませんが、あえてニュアンスを区別するなら「フェリア」についてはいろいろなお店や屋台が立ち並ぶ「市場」や「縁日」をイメージすると良いかもしれません。

 

■ 短い休みをあらわす言葉

 休みをあらわす別の言葉に”asueto”というのもあります。特に昔は「休校」の意味で使われていました。これの語源はラテン語の”festum assuetum”(いつもの祭日)から来ていますが、”asueto”も上の”fiesta”や”feria”と同様、古カスティーリャ語で使われているうちに意味が変容し、今では「休校」以外の休みでも使われ、また「1日だけの短い休み」として用いられることが多いです。だから”Ella está hoy de asueto”(彼女は今日は休みだ)と言った時は、言外の意味として明日は仕事に復帰するということです。

 

■ 「バカンス」の元の意味は「ぶらぶらする」

 上でいくつか紹介しましたが……でも、なんと言っても「休息」をあらわす王道の単語は”vacación”です!! スペイン人も休みたいときは”Quiero vacaciones”と呪文のように唱えています。みんなが大好きなバカンスだからこそこの言葉から派生した言葉もいっぱい。”vacacionar”(中南米でもっぱら使われる「バカンスする」という動詞)、 “vacacionista” (バカンス満喫中の観光客。主にカリブ海地方で使われる)、”prevacacional”(前バカンス期の)、”posvacacional”(後バカンス期の)……などなど。ちなみにバカンスの語源はラテン語の”vocare”で意味は”estar vacío”(空っぽの状態である)。何も予定がない(=自由に遊べる)という言葉です。だから昔はバカンスと言ったら暇だったり仕事から解放されてぶらぶらしたりする状態を指していましたが、18世紀になってから今のように旅行に出かけたりレジャーを楽しんだりするような活動的な意味合いで使われ始めました。

 

■ バカンスを体現する人名「モスコソ」VS「ロドリゲス」

 また最近では、固有名詞がバカンスをあらわす言葉としてスペイン人の間で流行るようになりました。それは2つの苗字 “Moscoso”と”Rodríguez”です。まずモスコソとは、ハビエル・モスコソ・デル・プラドという実在の政治家のことを指しています。彼は80年代初期に大統領府大臣を務めた人物でした。彼は「特定の場合において、昇給した分の給料の代替として年6日間の休日を職員に付与する」という法案を出しました。そして実際に制定され(現在は6日よりも減っているようです)、モスコソの名は休日を連想させるようになったのでした。以来、彼の名はスペイン王立アカデミーの辞典にも登録され(実際のページ)、”pedir un moscoso”(モスコソを申請する)”disfrutar un moscoso”(モスコソを満喫する)などで使われるようになりました。

 もう1つのロドリゲスは、”quedarse de Rodríguez”や”estar de Rodríguez”などで使われます。このロドリゲスは1965年の映画『El cálido verano del señor Rodríguez(ロドリゲス氏の暑い夏)』主人公ペペ・ロドリゲスが由来です。バカンスの間、妻と子供たちはビーチに行ったのに、仕事のためにひとりで街(マドリード)に残っているという人物です。つまり”quedarse de Rodríguez”や”estar de Rodríguez”とは、家族や友人たちがバカンスに出かけてしまったのにひとりで残っている、という意味なのです。ロドリゲスの表現も辞典に登録されていますが(実際のページ)、どうやら仕事に言及した夏限定の表現は、これが唯一無二であるらしいとのこと。夏、バカンスと言ったらやっぱり仕事からの解放が大前提であるということですね。

 今年の夏は、モスコソ? ロドリゲス?

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