最先端技術との競演:イスラエル・ガルバンの新作フラメンコ
2019年01月04日
この予告動画だけでも、とても面白そうじゃないですか? フラメンコ舞踊を極めたイスラエル本人のサパテアードも超人の域ですが、その超速リズムを人工知能AIに学習させ、機械を「イスラエルの分身」として生み出す。完全新作ということで、実際に観てみるまで一体どんな公演になるのか、AIとのダブルイスラエルがどんなインパクトを与えてくれるのか予想もつきません。今回は日本でその公演を観れるということなので、山口県は遠方かな? という方でも頑張って足を運んでみる価値があると思います。
下記に紹介する記事では本番前の、山口情報芸術センター内での制作現場をレポートされています。イスラエルの神業を機械が読み取ることの難しさ、ギターやカンテなどのおなじみの共演者ではなく、今回は機械やテクノロジーという新たな共演者と対峙するアーティスト自身の姿勢など、たいへん詳しく取材されていますので興味のある方はぜひ一読を。
https://ontomo-mag.com/article/interview/israelgarban-20181113/
フラメンコとAI、どちらも「ここまで来たか」と思わせる公演になりそうですね。イスラエル・ガルバンの公演は編集部スタッフも昨年に初めて観たのですが(埼玉の彩の国さいたま芸術劇場で公演された代表作「La Edad de Oro 黄金時代」)、まず一般にイメージされるようなフラメンコの公演とは違います。例えば伝統を重んじる古典的フラメンコは、観客の視線の先には舞踊家の情緒的な表情や身振りがあり、そこに呼応するように重ねられるカンテとギターの旋律があり、余韻があり……美しい衣装やリズミカルなパロマ、舞台を賑やかにするハレオなどの「陽」の部分と、生の憂いを己の身体をもって最大限に表現する「隠」の部分が混ざり合う、つまり人生の悲喜こもごもが等身大で表現されますが、イスラエルの舞台は今陳述したような性質のものとは全く異なっています。彼のサパテアードの音と身体の躍動、腕の螺旋の動きからは、スペインの伝統的なイメージに寄らない独立した世界が目に浮かび上がります。どのような世界が広がるかは受け手側によって異なると思いますが、私は実際の公演で、真っ黒な舞台の中で、あるはずもない大地の振動や火山の噴火、四季の移ろい、人知を超えた領域のエネルギーを感じました。有無を言わせぬ圧倒的なパフォーマンス性。というのが、初めて観たイスラエルの公演への印象で、だからこそ本作についても読者の皆さんに一押しします。
実際にフラメンコの世界というのは、私たちの思っている以上に革新的で、時代とともに変化し続けているのだと思います。そうしたことは、昨年10月に参加した講演会のレポートにも書いていますので、そちらもよければ読んでみてください(ブログ記事はコチラ)。また本誌vol.36の冒頭で掲載した日本フラメンコ協会副会長の小林伴子様の文においても、フラメンコが絶えず進化をし続ける芸術であることを言及いただいています。
ところで最新号vol.36ですが、読者の方からもとても温かい反響や感想をいただいています。ありがとうございます! フラメンコ愛好家の方たちはもちろんのこと、今回の記事をきっかけに「日本でフラメンコが人気なのは知っているけれど、具体的にはどんな世界なのか知らない」人が、この文化に興味をもっていただけたら嬉しいです。そしてそんな人たちにはなおいっそう、イスラエル・ガルバンを推奨します!
山口情報芸術センター公式サイト:www.ycam.jp/events/2019/israel-and-israel