ウーパールーパーのおはなし
2018年10月11日
別名メキシコサンショウウオ。つぶらな瞳の癒し系の両生類、日本でもペットとして人気ですね。ウーパールーパーというのは和名です(upalpaというスペイン語の単語は、あるようで、ない)。スペイン語圏では、この両生類はajolote(アホローテ)と呼ばれています。そんなアホローテにまつわる興味深いおはなしを、メキシコ公式サイトがまとめていました:6 insólitas transformaciones del ajolote
アホローテ(ナワトル語ではアショロトル)とは、水の怪物または水の犬を意味している。サンショウウオ、魚、神、象徴、ゆるキャラ、ポケモンなどの世界で認められる。メキシコ固有種の中では、もっとも愛されている生物のひとつである。
Ajolote, axolotl en náhuatl, quiere decir monstruo o perro de agua, y es entre salamandra, pez, divinidad, símbolo, yuru-kyarao pokémon; uno de los animales más encantadores de la fauna mexicana.
1.インスタグラムに出現するアホローテ Ajolote para Instagram
幼形成熟の両生類。つまり成体になっても幼生期の特徴を留めている。湖上でのんびりと生息している。小魚を食べ、夜行性である。成体化しなかったサンショウウオといったところである。体長25cmで、頭からは櫛で梳かしたような3対のえらが後方に向かって伸びている。小さな目と小さな脚。一般的には暗い色をしており、茶色や白の斑点がある。ペットとして飼育されている中にはアルビノ種が見られる(=ウーパールーパー)。寿命は10年から12年ほど。ペットでは15年ほど生きることもある。とても可愛い。
2.絶滅の危機に瀕しているアホローテ Ajolote en extinción
メキシコの渓谷にある湖において、とりわけソチミルコではアホローテが絶滅の危機に瀕している。生息地域の汚染のほか、アホローテを捕食する外来種の出現(コイやティラピア)などがその原因である。保護のため、ソチミルコの湖ではプラスチックの網で囲われた分離領域を作り出し、そこで繁殖を試みている。このプロジェクトはまた天然植物の再生をももたらし、そうして育った木の根が自然の防壁となる。
一方で、ペットとして飼育されているアホローテによる繁殖もある。繁殖は容易(1つのつがいから300-1000個の卵が生まれる)。カナダ、オランダ、日本、韓国、アメリカ、スイスやイギリスなどで、ペットとして定着、繁殖が行われている。この手の繁殖は、要保護生物となっているメキシコではそれほど見られない。驚くかもしれないが、 この繁殖法は科学者の間で「生態系モデル」と捉えられているようだ。
3.自己再生するアホローテ Ajolote Frankestein
アホローテは数ヶ月をかけて、器官(脚や指)や生命維持に必要な内蔵器官(脳や心臓)の自己再生ができる。この治癒能力は、脊椎動物の末端部の発育サンプルとして取り扱われている。またアホローテは、移植にも耐久性がある。2匹のアホローテ(1匹は黒、もう1匹はアルビノ)をそれぞれ横から2つに切り、互いを縫合させたところ、その縫合体は生きることができ、傷口も回復したという実験がある。
4.神性のアホローテ Ajolote Deidad
アホローテは、実はショロトル(Xolotl)の化身とされている。ショロトルはアステカの死と再生、遊戯を司る神だ。伝説によると、ショロトルは5番目の太陽の誉の下、自らが生贄に捧げられるのを拒み、逃げ出した。逃げながら彼はトウモロコシに姿を変えたが、見つかったのでまた逃げ出した。今度はリュウゼツランの中で肉質の葉に姿を変えた。また見つかったので、湖に逃げ込んだ。そこで彼は魚に姿を変えようとした。けれども処刑人が、彼を捕まえて殺してしまった。その時から、アショロトル(axolotol)は死を恐れる神であり、死から逃れるために魚にもサンショウウオにも成体せず、幼生に留まっているのである。
5.知性のアホローテ Ajolote Intelectual
ソチミルコに棲む両生類の名をもっとも有名にしたのは、フリオ・コルタサルの作品である。彼の作品『遊戯の終わり Final del juego』では「アショロトル」という名で登場する。ここで物語の語り手は、一匹のアホローテを観察・研究するという強迫観念に取り憑かれ、最後には彼がアホローテに変身して終わるのである。
2011年、ロヘル・バルトラが著名な『アショロティアーダ / メキシコのある両生類の生と神話 Axolotiada. Vida y mito de un anfibio mexicano』を出版した。この著にはアホローテに関する話やイラストレーションが収められている。話の著者は、副王時代の作家、例えばベルナルディーノ・デ・サアグンやフランシスコ・ハピエール・クラビヘロ、ホセ・アントニオ・アルサーテがいる。またオクタヴィオ・パスの同時代作家、フアン・ホセ・アレオーラやホセ・エミリオ・パチェコ、サルバドール・エリソンドらもいる。収録されている絵の中には、フィレンツェの古文書からの提供や、ディエゴ・リベラの壁画作品《生命の起源 origen de vida》も含まれている。
またアホローテはSF作家フランク・ハーバートの『デューン/砂の惑星』にも登場する。
6.アホローテ・カワイイ Ajolote Kawaii
アホローテは、日本のオタク文化にも取り入れられている。有名なポケモン「ミズゴロウ」もこの両生類が発想の源である。ミズゴロウには、アホローテのエラによく似たトサカがある。日本のゆるキャラ祭りでも、アホローテのゆるキャラ「ルピータ」の名が知られるようになった。メキシコ在住のデザイナー森脇音可氏が生み出したキャラクターである。彼女はルピータを、ソチミルコの湖を綺麗にする取り組みに励んでいる市民団体の支援のために描いた。この両生類は日本ではすでにとても有名で、ラーメンの商標にまでなっていることから、アホローテの着ぐるみが誕生したのである。ルピータは「メキシコと日本の相互交流の友」となり、「メキシコ・カワイイ」の世界において重要な地位にいる。ルピータについてさらに詳しく知りたければ、公式サイトへ:https://www.xochimilkids.com/
……ただカワイイだけではない! アステカ文明の時代から、不思議な生物として現地の人たちにも神聖視されていたウーパールーパー、もといアホローテ。アホローテ(アショロトル)の名前の中に「ショロトル」というアステカ神話の神さまが含まれていたというのが面白いですね。死を恐れるために、死から逃れるために、身体の時間を止めて成体になることをやめたという発想はなんとも幻想的。
そんなアホローテがウーパールーパーという名で、日本では身近なペットとして定着。さらにそのイメージのままゆるキャラになって、今度は原種が棲むソチミルコの環境保全活動に還元しているのですね。生態上でもとても奥深い生物。ソチミルコといえばトラヒネラという鮮やかな彩色の舟が有名ですが、この地を訪れる時はぜひ、アホローテの保護活動にも注目したいところです。