スペインとメキシコの人類学者が批判した「先史時代のジェンダー観」

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 イベリア半島にはいくつかの先史時代の貴重な洞窟壁画や岩絵が残されており、考古学の分野において大変重要な場所です。最も有名なのが、北部カンタブリア州のアルタミラ洞窟。およそ1万8000年〜1万年前の旧石器時代に、旧人類ネアンデルタール人によって描かれたと推定されています。実はこのアルタミラ洞窟を巡って、2013年には学術界で騒動が起こりました。マドリード州考古学博物館で展覧会「アーティストなきアート、旧石器時代へのまなざし Arte sin artistas. Una mirada al Paleolítico」が開催された時、館長Enrique Baquedano氏が、洞窟の天井にバイソンの絵を描いている女性のイラストを展覧会イメージポスターに選出したことで、「描いたのは本当に女性であるという裏付けはあるのか」と議論が起こったのです。アルタミラ洞窟の「画家」たちは男性だったのか? 女性だったのか? まだ確固たる証拠は突き止められていませんが、この騒動によって先史時代の「人類」のイメージに、自動的に男性像を当てはめる先入観が浮き彫りになりました。特にスペイン語では「人類」と「男性」は同じ単語「hombre」で表記するので、言葉がもつ影響力も指摘されています。

 人類学・考古学の分野では今、スペイン人とメキシコ人からなるおよそ20人の研究チームが、先史時代の歴史を紐解いた時に女性の役割が軽視されてきたと批判しています。彼らはマドリード自治大学の出版で『考古学博物館とジェンダー:平等に教育する Museos arqueológicos y género. Educando en igualdad』を2017年に出版しました。この書籍の研究者たちはスペインとメキシコ、両国の考古学博物館に焦点を当て、そこに見える「男性中心主義」の考え方を批判しています。

 その例としてホモ・フローレシエンシスという先史時代の人類が挙げられます。インドネシアのフローレス島で発見されたことからこの名前が付けられ、小型のヒト属であることからホビットという愛称でも呼ばれています。専門家たちは、このホモ・フローレシエンスのある展示をめぐって、発見された骨は1万8000年前の女性なのに、意図的に女性だという痕跡が隠されて、あたかも男性の人類と思わせるような展示プロセスが取られていたと指摘。ここで彼らが主張しているのは、大げさに先史時代の人類の女性の存在をアピールするとか、誇張するとかではなく、両方の性別の人類が、おのおのの時代で果たしてきた役割を正しく検証することだ、ということです。

 スペイン語を習っている時「男性」と「人類」が同じ単語なので、訳に迷ったことはありませんでしたか? Hombre、と何気なく私たちが使っている言葉ですが、日常に浸透しているからこそ科学的な場でもその先入観が明らかになるのですね。スペイン語圏の人類学・考古学研究チームが投じた一石から、新たな知見が広がりますように!

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