ガリシアの詩人ロサリア・デ・カストロが星の名前に

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 19世紀のスペインの文学者、詩人にロサリア・デ・カストロ Rosalía de Castro という女性がいます。日本ではほとんど名が知られていませんが、スペイン国内では著名な詩人の1人です。1837年にサンティアゴ・デ・コンポステーラに生まれたガリシア人である彼女は、カスティーリャ語とガリシア語の両言語で作品を残しました。代表作は『ガリシアの歌(Cantares gallegos)』。Rexurdimento(レシュルディメント)というガリシア地方で興った19世紀ガリシア語の文芸復興のための重要作品に位置付けられています。

ロサリア・デ・カストロ

 彼女の死後180年以上経った現在、地球から240光年離れたへびつかい座の中の恒星に、ロサリアの名前がつけられることが決まりました。さらに彼女の作品である『サール川の畔にて En las orillas de Sar』にちなんで、サンティアゴ・デ・コンポステーラ近郊を流れる「サール川 Río Sar」もこの恒星の系外惑星に決まりました。よく巡礼の道を「星の道」と詠いますが、ガリシアの天上に広がる夜空の星に、地上の川の名前が反映されるとは、とても素敵なニュースですね。

 今回のロサリア・デ・カストロは、国際天文学連合(IAU)が主催する「IAU100 NameExoWorlds」という太陽系外惑星命名キャンペーンの一環で決まりました。これまで名前が決まっておらず記号で呼ばれていた恒星と太陽系外惑星について、世界各国・各地域それぞれに命名してもらうという面白い取り組みです。ですので、スペインのみならず各国それぞれでキャンペーンが展開されています。日本の場合は、恒星の名前がアイヌ語で神の宿る場所を意味する「カムイ」、系外惑星は沖縄の言葉で自然の美を意味する「ちゅら」に決まっています。

 ロサリア・デ・カストロについては、スペイン国内で、20の候補名の中から人気投票で選ばれたとのことです。彼女の名前は13,179票を集め、全体の40%近くの票を得て1位になりました。ところでスペインにちなんだ星の名前はロサリアが初めてではなく、過去にも名付けられています。誰の名前になったかは、だいたい想像がつくと思います。はい。2015年に「セルバンテスのための星 estrella para Cervantes」として、 太陽系外惑星の4つの惑星に、それぞれキホーテ、ロシナンテ、サンチョ、ドゥルシネアと名付けられました。星の海でも風車巨人と戦っている英雄の姿が目に浮かびます…(!?)

 ところで今回の星の命名は、2019年12月17日(火)にIAUが各国・各地域に割り当てた名前が一斉に発表されました。他のスペイン語圏各国で決まった星の名前もそれぞれ面白いです。

●メキシコ……恒星「アホロートル(ウーパールーパー)Axólotl」太陽系外惑星「ショロトル Xólotl」
なぜにここでウーパールーパー? と疑問に思った方は以下のブログも参考にしてください。ちなみにAxólotl、Xólotlともにスペイン語ではなくナワトル語です。

ウーパールーパーのおはなし

●コロンビア……恒星「マコンド Macondo」太陽系外惑星「メルキアデス Melquíades」
ガルシア=マルケスのファンなら今さら聞くまでもないです。『百年の孤独』の舞台「マコンド」と作中の重要な人物「メルキアデス」ですね。この星の下では絶対に迷子になりそうです。ホセ・アルカティオ・ブエンディーアよ……見上げてごらん、夜空の星を……。

●キューバ……恒星「フェリックス・バレラ Felixvarela」太陽系外惑星「Finlay フィンレー
キューバでは実在の人物が選ばれました。フェリックス・バレラは19世紀の神父。のちにニューヨークに亡命しますが、キューバの人権運動家として活躍しました。カルロス・フアン・フィンレーは医師で、蚊によって媒介される黄熱の研究の先駆者となりました。

●グアテマラ……恒星「トヒル Tojil」太陽系外惑星「Koyopa’ コヨパ
グアテマラの先住民族、マヤ系のキチェ族の言葉です。トヒルは雨、嵐、炎に関連する神の名前で、コヨパは雷鳴に関連する言葉です。

 中南米諸国の星を全て取り上げませんが、グアテマラやメキシコのケースのように、先住民族の言葉や神話から、今回のキャンペーンの恒星と太陽系外惑星の名前を決定している国が多いですね。スペインの今回のロサリア・デ・カストロが選ばれたのも、この国の多言語共存という一面を表しているように思います。

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