反戦を訴えた哲学者ウナムーノ / 映画『Mientras Dure La Guerra』

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スペイン・ビルバオ出身の哲学者、ミゲル・デ・ウナムーノ(Miguel de Unamuno)をご存知でしょうか。知識人グループ「98年世代」の筆頭で、オルテガ・イ・ガセット(おそらくスペインの思想家の中でもっとも有名なのは彼でしょう)とも交流をしその思想に影響を与え、スペイン最古の大学・サラマンカ大学の総長を務めたことでも知られています。昨年2018年には同大学の創立800周年を記念して、日本でもウナムーノに関連する和書が出版されています。

『情熱の哲学: ウナムーノと「生」の闘い』

■佐々木孝 著, 執行草舟 監修
■法政大学出版局
■2018年1月刊

『ベラスケスのキリスト』

■執行草舟 監修, 編集 安倍三﨑 翻訳
■法政大学出版局
■2018年4月刊

ウナムーノは、『死に至る病』で知られるキルケゴールの実存主義哲学から深く影響を受けています。ウナムーノもまた、自らの死の恐怖、あるいは最愛の子どもの死の現実を目の当たりにして、自己とは何者か、死の絶望の淵に立たされた人間とは何者か、を問いていきます。バスク生まれですが、スペイン人の民族性についても深く熟考し、セルバンテスの古典の主役とその僕、ドン・キホーテとサンチョ・パンサのキャラクター像にスペイン人の生のあり方を見出そうとします。代表作に『生の悲劇的感情』や『ドン・キホーテとサンチョの生涯』などがありますが、上で紹介している昨年出たばかりの『情熱の哲学』が非常に良い入門書として挙げられます。

ところで、そのウナムーノにスポットライトを当てた映画が、今秋にスペインで公開されます。映画の題はMientras Dure La Guerra(戦争が続く限り)。監督は名作『海を飛ぶ夢』(2004年)を撮ったアレハンドロ・アメナーバル。昨日、その映画の予告が初めて公開されました。

 
映画の中でウナムーノが演説している場所は、サラマンカ大学です。ウナムーノが総長を務めていた当時、スペインは激動の時代に突入していました。すなわち内戦の前夜です。ウナムーノもまた同時代の他の知識人たちの例に漏れず、戦争によってその運命が左右された人物でした。1900年にスペイン政府から任命され36歳で総長に就任しましたが、1914年には政治的活動を理由からその座を追われます。さらに、1923年にプリモ・デ・リベラの独裁政権が成立すると反体制派のウナムーノはカナリア諸島に追放されました。リベラが倒れた後でふたたび1931年にサラマンカ大学の終身総長として復帰しますが、それからまもなく1936年にスペイン内戦が勃発します。ウナムーノは、この時も反戦の姿勢を貫き、叛乱軍の関係者らが多数出席している大学構内の祝典の最中で、怯まずに反戦の演説を行いました。ふたたび大学から追放された彼は、同年の12月31日に息を引き取っています。
 
予告編を見る限りでも、間違いなくその反戦の演説に焦点が当てられていることがわかります。そして上述したように、昨年にはウナムーノの関連書籍が日本でも出版されていることから、ぜひ注目したい作品。日本で公開されるのは1年後か、2年後か……あるいは動画配信サイトでもっと早くに見ることができるか? 期待です。

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