フェラン・アドリアが語る日本食の世界
2019年02月05日
料理界に革命をもたらした天才シェフ、フェラン・アドリア。2011年に長らく経営したカラ・モンジョイの「エル・ブジ」を畳んで以降、もうレストランは再開しないとされ、それでも世界中の料理人が彼の新たな挑戦、新たなプロジェクトの始動を待ち望んでいました。そしてついに2020年、料理研究ラボも兼ねた「エル・ブジ1846」をオープンするとのこと。スペイン国内外から熱い視線が注がれる中、1月29日にマドリードのテアトロ・レアルでフェランが日本食をテーマとした講演会を開催し、Movistar Likesでストリーミングのライブ配信がされました。
Ferrán Adrià te introduce en la cocina japonesa desde el escenario del Teatro Real
El cocinero ofrece una ‘masterclass’ centrada en su especial vinculación con la cocina nipona que se podrá seguir por la web de Movistar Likes
フェランの料理人生において、日本食との出会いは重要です。これまでに『acueducto』に2回、エル・ブジの特集を寄せた渡辺万里先生は「日本の美味の概念とフェランの美味の世界は、まるで違うように見えて実は近しいものと言ってもいい」と述べています(特集記事:エル・ブジ、その始まりから終わりまで)
そのフェランが日本食と出会ったのは「エル・ブジ」で料理人として働き始めてからおよそ20年後の2002年。新しい料理の扉を開くため、彼は遠い日本まで旅に出ました。ジローナ出身の料理人は、寿司に、酒のつまみに、屋台の串カツに驚嘆します。そしてこの時に日本の料理界で学び取ったことこそが、以後閉店までのおよそ10年間の彼の創作料理に強く反映されることになります。フェラン自身も次のように証言します(参照元の『El País』記事より抜粋)。
La sensibilidad, la cultura y los conocimientos que hay en Japón respecto a la gastronomía hacen que este país sea un punto de referencia mundial.
この国にある料理の感性、文化、知識。これらによって日本は世界的な参照点となっている。
フェラン周辺のみならず、こうした日本食やおつまみの文化は今、世界中の料理界で採用されています。先日ブログでご紹介したMadrid Fusiónのコンテストで優勝したトレドのレストラン「Tobiko」しかり、日本食のコンセプトは日々、世界に浸透しているのです。
フェランが日本で発見した数々のものの中でも特に注目したのは、8人掛けのテーブル1つしかない会員制の日本料理店「壬生」(銀座)。ここのシェフ石田廣義氏とフェランは親しくなり、「壬生」の和食器やテーブルをスペインに持ち帰り、翌2003年には1週間、これらの食器を「エル・ブジ」で使用していました。さらにこの時のエピソードは漫画化(Mibu-elBulli)、劇場化(El tigre de yuzu)までされ、フェランにとって日本食との出会いがいかに革命的出来事であったかを伝えています。
そして当然ながら「エル・ブジ」で提供されるメニューにも日本食の技術・文化の影響がもたらされました。2005年のメニューの一例:牡蠣のクリームソースをかけた海藻入りサフランの天ぷら。ヨーグルトとキイチゴの餅。そしてフェランと日本食との強い結びつきは日本料理界でもよく知られ、2015年に旭日小綬章を受賞しました(参考記事:レストラン「エル・ブジ」のフェラン・アドリア、旭日小綬章を受章)
しかしフェランは料理界の哲学者とも呼べる存在。彼の思想も年を経るごとにどんどん発展しいきます。今回のテアトロ・レアルでの講演も、これまでの日本料理界と彼との結びつきをさらに超えた地点まで進みました。フェランは西洋料理の変革、アヴァンギャルドの意義、そして料理人としての人生から創出された感性と刺激の関係性などについても解説。天才料理人の手ほどきによって参加者は、料理が誘発するさまざまな未知なる感性を体感。例えば、スプーンで食べるか箸で食べるかによって、料理の味が変わるというのです。
気になる本講演は、上で貼ったMovistar Likesの公式動画から見ることができます! もちろん全編スペイン語ですが、興味が沸いた方はぜひ見てみましょう。